慢性便秘に対しては,近年,上皮機能変容薬を含む数種類の新規便秘治療薬(西洋薬)が投薬可能となっており,治療の選択肢は格段に広がってきている。
しかし,慢性便秘の治療目標は排便のコントロールだけではなく,腹痛などの排便周辺症状のコントロールも重要であることを考慮すると,作用点の多い漢方治療が適応となる症例も決して稀ではない。漢方治療の場合,虚証の患者に実証の処方をすると強い腹痛を生じ,激しく下痢をするなどの副作用が起こる可能性があるため,患者を「実証・虚証」に分類し薬を使い分けることが重要である。表に慢性便秘に用いる代表的な漢方薬を示すが1),高齢者の慢性便秘に対しては,麻子仁丸と潤腸湯がよく使われる。
慢性便秘治療の基本は①腸管における水分の調節による便の軟化,②腸管粘膜刺激による腸管運動亢進,③腸管の過剰収縮を和らげることである。腸管粘膜の刺激による腸管運動亢進作用を有する生薬には大黄が挙げられ,潤腸湯等など多くの漢方薬に異なる分量で含まれている。さらに,漢方薬の特徴の一つと考えられる腸管の過剰収縮を和らげる作用を有する生薬には甘草が挙げられ,潤腸湯にも含まれている。
大黄の薬効成分であるセンノシドはこれまで,大腸で腸内細菌により分解されてレインアンスロンとなり腸粘膜の神経細胞を刺激し,腸管運動を亢進させるのが主な機序と考えられてきたが,近年,水分吸収にも関与していることが判明している。アクアポリン(AQPs)は浸透圧勾配に従って水を輸送する膜タンパク質であるが,センノシドAの代謝産物であるレインアンスロンはマクロファージの活性化,アクアポリン3の発現低下を引き起こし,水の透過性を低下させることにより瀉下作用を示すことが判明している。
また,近年,潤腸湯の新たな作用機序として,細胞内cAMPを増加させることによるCystic Fibrosis Transmembrane conductance Regulator(CFTR)活性化作用があることが確認されている2)。