厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き」では,咽頭痛を主訴とする急性気道感染症を,急性扁桃炎を含め急性咽頭炎と定義している。このような病態を有する症例の原因の大部分はウイルスである。抗菌薬が必要とされるA群β溶血性レンサ球菌(GAS)はせいぜい10%程度である1)。GASによる咽頭炎の可能性を判断する基準としてCentorの基準に年齢補正を加えた下記のMcIsaacの基準を用いると有用である。
・発熱(38℃以上):1点
・咳がない:1点
・圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹:1点
・白苔を伴う扁桃炎:1点
・年齢:3~14歳 +1点,15~44歳 0点,45歳~ -1点
この基準に照らして2点以下であればGASの迅速抗原検査は不要である。3点以上かつ迅速検査陽性の場合はペニシリン系抗菌薬適応(成人:アモキシシリン3C/日10日間)となる。4点以上かつ迅速検査陰性の場合はC, G群溶血性レンサ球菌(Streptococcus dysgalactiae subspecies equisimilis)やFusobacterium necrophorumも考慮する必要がある2)。扁桃周囲炎(前口蓋弓の発赤腫脹)の場合は,前述の細菌に加えてPrevotella spp.等も考慮してアモキシシリン+クラブラン酸(オーグメンチン配合錠3T+アモキシシリン3C)で治療する。
また,上記のスコアは3点を優に超え,同時に後頸部リンパ節腫大やまぶたの腫れなどを認めたときには,伝染性単核球症を疑い抗菌薬の処方は控える。必要に応じて咽頭ぬぐい液のグラム染色や培養検査,血液検査等も活用する。
なお,人生最悪の咽頭痛,開口障害,唾液を飲み込めない等の場合は扁桃周囲膿瘍など重症深部感染症のことがあるので注意しなければならない。
今回の症例は,喫煙歴がなくMcIsaacの基準は1点であったため抗菌薬は処方せず,小柴胡湯加桔梗石膏を選択した。
小柴胡湯加桔梗石膏は,消炎効果のある小柴胡湯に排膿,鎮痛効果のある桔梗と清熱作用のある石膏を加えた処方である。悪寒を認めない場合に適応となり,悪寒や頭痛がある場合は葛根湯+桔梗湯を処方する。また,扁桃炎を繰り返す場合は若年者であれば柴胡清肝湯,中年以降は荊芥連翹湯を用いる。