重度まで進行したADでは,意思疎通ができなくなり,体重減少,身体能力の低下,食事摂取困難などが目立ってくるが,行動・心理症状(BPSD)の陰性症状であるアパシーは見過ごされていることが多い。
認知症疾患診療ガイドライン20171)では,AD治療においてChEIかメマンチン(薬剤の特徴と使用歴を考慮して選択)で「効果なし・不十分・減弱/副作用」の場合は投与中止を考慮することになっている。また,進行予防の観点からは,重度における薬物療法は意義が乏しくなる。
人参養栄湯は,気血両虚に対して用いられる補剤であり,記憶に関わるとされる遠志も含有している(表)。高齢者で見られるフレイルやBPSDの陰性症状にも有効である。
岡原2)や大澤ら3)は,認知症患者に投与し,認知機能改善に加え,NPIスコア,食欲などの改善効果があることを報告している。多成分系漢方薬であり,基礎研究のデータはまだ少ないが,ドパミン系を介した作用4)やミトコンドリア増加5)など,臨床での有効性を支持するようなデータも報告され始めている。
上記のCaseは重度AD症例であるが,人参養栄湯は気血両虚を伴う軽度認知障害から高度認知機能低下に至る幅広いステージにおいて使用可能である。また,正常加齢に伴う認知機能低下症例やAD以外の認知症疾患においても有用であると考えられる。さらには,介護者側の負担軽減も期待できる。
ChEIやメマンチンへ追加しても,過剰な興奮状態や副作用の出現は少なく,漢方や認知症を専門としない先生方にも処方しやすい製剤である。効果を比較的早期に実感できるため,まずは使っていただくことをおすすめする。