日本排尿機能学会の調査では,60歳以上の78%で尿意切迫感や排尿困難など何らかの下部尿路症状を有し,その中でも夜間頻尿は4500万人程度存在すると推定されている1)。夜間頻尿による就寝後の中途覚醒は,睡眠障害やトイレ移動時の転倒などを誘発する危険性もあるため,実臨床においては,2回以上の夜間頻尿を呈するもので,症状の自覚,つまり困窮度が高ければ積極的に治療介入することが多い。
夜間頻尿などの蓄尿症状に対する内科的治療としては,一般的にβ3アドレナリン受容体作動薬や抗コリン薬を使用することが多い。しかしながら夜間頻尿の原因は実に多彩であり,西洋薬によるコントロールだけでは不十分な症例にもよく遭遇する。
また高齢患者では加齢を要因とする生理機能の低下により,上述の内服加療によって残尿の増加や排尿困難などの有害事象を来しやすいため,薬剤投与の適応はより慎重でなくてはならないと考えられる。
その一方で,高齢者ではいわゆる「腎虚」の状態が各種下部尿路症状の原因となっている場合も多いため,有害事象の出現リスクが低く比較的安全に使用可能な漢方薬,特に補腎剤が有用な場合がある。
補腎剤の中では,特に,夜間頻尿に対する牛車腎気丸の有効性についての研究が基礎および臨床の両面よりなされ,最近注目を集めている。
牛車腎気丸は同じく補腎剤である八味地黄丸(生薬成分:地黄,山茱萸,山薬,沢瀉,茯苓,牡丹皮,桂皮,附子末)に2生薬(牛膝,車前子)を加えたもので,かつ,鎮痛・利尿強心・新陳代謝亢進作用を有する附子末を倍量にし,さらに比較的胃腸障害を来しやすい地黄を減量した方剤である。
牛車腎気丸は,夜間頻尿に対して52~76%と比較的高い治療効果を認めており,表に示すように,様々な作用機序を有することから,証に関係なく夜間頻尿などの蓄尿症状に効果を発揮する2)ことが期待される。