慢性心不全・急性心不全問わず,心不全は西洋医学的にガイドラインが確立されており,循環器専門医としてはなすべきことが決まっている。しかし,なすべきことをすべてした上で急性増悪を来す症例にもしばしば遭遇する。
また,駆出率の保たれた心不全(HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction)のようにそもそもなすべき術が限られている場合,実地の臨床家は大変な困難を抱える。
このような症例に対し当院では様々な試みを行っているが,そのうちの1つが漢方薬の併用である。ガイドラインで推奨される投薬が可能な限り処方されているにもかかわらず,症状の増悪とBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の増加を認めた症例に対し木防已湯を併用した12症例を後ろ向きに見た研究では,全例で症状が改善し,BNPが低下していた1)。
そこで,入院を要する慢性心不全急性増悪患者に対し,前向きに標準的治療のみを行う群と,標準的治療に木防已湯を併用する群で症状の改善効果を検討したところ,VAS(visual analogue scale)を用いた評価で,症状改善効果は木防已湯併用群のほうが有意に高かった2)。
木防已湯は『金匱要略』において「膈関支飮,其人喘滿,心下痞堅,面色黎黒,其脉沈緊,得之數十日,醫吐下之不愈,木防已湯主之」と記載されているが,現代の西洋医学的用語に翻訳すれば,Nohria-Stevenson分類BまたはCのADHF患者と訳されると思われる。
自施設の研究でも,木防已湯併用群でのみ総ビリルビン値と左室拡張末期径が有意に改善されており,前負荷軽減による症状緩和作用が窺われる2)。基礎研究でもモルモット心筋における抗不整脈作用,心筋保護作用3),ラット大動脈における血管緊張調節作用4)が報告されており,実臨床での実感とも合致する。
心不全の治療にはガイドラインに沿った基本に忠実な治療が必須であるが,他に手がない場合や症状が強い場合に漢方の併用を考慮するのも一つの手である。