内科外来で咽頭痛,鼻水,鼻閉,咳嗽,喀痰,発熱などかぜ症状の対応を求められる機会は多い。一般的な対応は,総合感冒薬や消炎鎮痛薬,抗アレルギー薬,去痰薬,含嗽薬などにより対症療法に努めることになる。かぜ症状はウイルスが原因の場合がほとんどで,高熱や膿性痰がなければ抗菌薬を使用することは少ない。
しかし,超高齢社会の日本は,高齢者の割合が増加の一途である。症状が軽症と思われる段階から対応を誤ると,フレイル,寝たきりへ進行するケースもある。本症例のように対症療法を行うものの食欲不振になり,症状が遷延することや,発熱もなく症状が軽症に見えて肺炎であることもあり,初期対応が重要となる。
かぜだからと画一的に同じ処方や指導をするのではなく,患者の体力,症状の強さ,持病に合わせた工夫が求められる。その治療の工夫をする上で漢方は優れている。本邦でかぜ症状へ漢方か解熱鎮痛薬を投与した研究では,漢方投与群で発熱や全症状の持続時間が短期間で改善したとする結果1)もある(表)。本症例も漢方投与を行い,短期間で遷延悪化した症状の改善をみており,患者の状況を考えた治療が必要と言えよう。
本症例で使用した参蘇飲は和剤局方を原典とする漢方で,六君子湯を基礎にしている。胃腸機能を維持しつつ,頭痛・発熱に葛根,蘇葉,前胡,咽頭痛・咳嗽・喀痰・鼻汁に半夏,桔梗,陳皮が作用し,胃腸機能の弱い症例の上気道症状に対応する2)。
かぜには葛根湯が有名だが,麻黄が入るため,胃腸の弱い人では胃腸障害,心臓の弱い人では心不全,前立腺肥大症の患者では尿閉のリスクが高まる。より虚証で麻黄の副作用が気になる症例は桂枝湯を使用する。発熱していても体熱感がなく四肢の冷えを感じる症例や漿液性の鼻汁のある症例は麻黄附子細辛湯や小青竜湯が役立つ3)。参蘇飲は,胃の弱い人で葛根湯や桂枝湯が胸につかえるという,感冒に咳嗽を兼ねたものによいとされ,高齢者で使用しやすい漢方である4)5)。