慢性副鼻腔炎は耳鼻咽喉科で頻回に認める疾患である。慢性副鼻腔炎に対するマクロライド療法が羽柴ら2)により提唱されて以来,治癒率は改善し,手術適応となる症例も減少してきている。しかし,マクロライド療法を施行しても症状が残存する症例があり,様々な事情から手術療法も施行できない場合がある。
今回,マクロライド療法後も症状が遷延する症例に対し,主に鼻炎に使う漢方薬の1つである辛夷清肺湯を投与し,比較的早期に症状が消失した。
辛夷清肺湯を構成する生薬の主要成分と作用を表に示す。このうち,主生薬である辛夷には粘膜収縮作用による鼻閉の改善作用があり,枇杷葉と升麻も鼻閉に有効な生薬である。また石膏や黄芩は熱や炎症の改善作用があり,これらの作用が相まって効果を発現するものと考えられる。また,辛夷清肺湯には繊毛運動機能の改善作用があり,このため後鼻漏に対する治療の基本薬としてよいものと考えられる。
漢方薬を使用する場合,患者の証により同様の症状であっても使い分けが必要とされている。しかし,耳鼻咽喉科の臨床では,舌診,腹診等漢方の証の診断に必要な診察を行うことが不可能な場合も多い。
今回投与した辛夷清肺湯は,証に関する制限が少なく,比較的安全に投与することが可能な漢方薬であり,従来の治療で遷延する慢性副鼻腔炎に対しては有用な漢方薬と考えられる。