患者さんのために真面目に漢方治療をしたいと思う時,避けて通れないのが傷寒論だと思います。しかし,忙しい診療の中でそれを一から学ぶのは困難を伴います。そんな時に,どのようにしたらよいか? 先輩方の知恵を借りることです。図をご覧ください。
これは大野修嗣先生の提唱されている「ハンス・セリエのストレス学説と傷寒論」の対応を改変したものです。セリエがストレス疾患の病期で治療法を変えたように,漢方治療においてもストレス疾患は病名ではなく病期によって治療法が変わります。副交感神経優位の太陽病期は実証なら「発表」により病邪を散じるため麻黄剤を使用し,虚証なら「解肌」により免疫を賦活するため桂皮を使用する。体がストレスに抵抗して交感神経優位の少陽病期なら,「和解」で炎症・緊張・興奮反応を適切に制御するため,「胸脇苦満型」には柴胡・黄芩を含む柴胡剤,「心下痞硬型」には黄連・黄芩を含む瀉心湯類が適応になる。体が疲弊して交感神経すら反応しにくい太陰病期には「温裏」で体を温め活性化する乾姜や桂皮,人参を使用する、などです。
ここまで読んで「なんだか面倒くさい。なんか1つでいいからストレスに効く漢方はないの?」と思った先生,ご安心ください。あります。それが柴胡桂枝乾姜湯です。高山宏世先生の名著『傷寒論を読もう』には,「柴胡桂枝乾姜湯の方意は(…)太陽中風・少陽病・太陰病の三証が併存している」とあります。太陽病期虚証の方剤の桂皮,少陽病期の方剤として柴胡と黄芩,太陰病期の方剤である桂皮と乾姜,そのほか気分を落ち着ける牡蛎が入った本剤は各病期だけでなく,病期が混在した女性のストレス疾患にも対応できる方剤と言ってよいと思います。
ちなみに近年,過重労働による気虚や,「草食系」と呼ばれるように虚証の男性も多く,男性のストレス疾患にも同処方を使用することが適切と考えています。