食欲不振の原因でまず疑わなくてはならないのが,薬剤性の食欲不振です。
上記症例以外に,痙攣発作後に抗てんかん薬「イーケプラ」(一般名:レベチラセタム)を増量したことに起因すると思われる嘔気,嘔吐(1回のみ),食欲不振を来した36歳女性(くも膜下出血に対するコイル塞栓術後,攣縮期に脳梗塞,右片麻痺,運動性失語を合併。後日,未破裂脳動脈瘤に対して開頭クリッピング術施行)に半夏瀉心湯7.5g/日 分3内服開始後,嘔気が治まり,徐々に食欲不振も改善し,3日目には全量摂取できるようになった症例も経験しています。
CD(+)でバンコマイシンを長期投与され,急性期病棟から回復期リハビリテーション病棟に転科転棟してきた時には下痢であった86歳男性(他院で施行されたV-Pシャント感染によるシャント抜去の結果,水頭症が再燃し,当院脳外科でV-Aシャントを施行。膀胱癌も併存)に,消化管全体の炎症を抑えることによる下痢抑制効果を期待して半夏瀉心湯7.5g/日内服開始,翌日から下痢軟便が普通便に変化した症例もあります。
半夏瀉心湯は,胃腸や口腔内の激しい炎症が迅速に消退し,数日で普通便になるといった速効性が期待できる漢方薬で,とても重宝します。
「瀉心湯」というのは脾胃に働く薬です。半夏瀉心湯は,吐き気と心窩部のつかえた感じ,心下痞鞕に使う漢方薬です。構成生薬は半夏・黄芩・黄連・乾姜・人参・大棗・甘草の7種。半夏・乾姜は鎮嘔制吐作用,黄連・黄芩は消炎・制酸・鎮静・止血作用を有します。黄連と黄芩による胃炎に対する抗炎症作用に,半夏と乾姜による抗炎症と制吐作用が加わり,人参・大棗・甘草により胃腸の機能を回復させる作用があります。
イリノテカンの遅発性下痢に半夏瀉心湯が有効という報告もあります1)。また,食欲不振の第一選択薬である六君子湯で無効な場合に,表のような合方で効果が得られることも多数経験しています2)。