頭痛は日常診療で遭遇するごくありふれた症候の一つであるが,命に直結する二次性頭痛が隠れている可能性が常に存在する。かといって全例に頭部CT検査やMRI検査を依頼することは医療経済学的に無理がある。
一次性頭痛と二次性頭痛を簡便に鑑別できるトリアージ方法として,当院では五苓散と呉茱萸湯の同時投与を用いている。自験例101例中85例(84.2%)に頭痛軽減効果があり,効果のあった85例中73例(85.9%)は投与10分後にNRS 5/10以下になっている。無効例には椎骨動脈解離,脳腫瘍,頸椎椎間板ヘルニア,2例の副鼻腔炎などが含まれていた1)。 24時間以上経過した,あるいは強い頭痛の場合には,上記症例のように10分間隔2回連続の投与がより有効である。
片頭痛の漢方治療として実証には五苓散,虚証には呉茱萸湯を単剤で用いるのが一般的だが,有効率は決して高くない。しかしながら,二剤同時投与はトリプタン注射に匹敵する即効性と有効性があり,片頭痛治療の第一選択薬に相応しい。西洋薬の塩酸ロメリジンやトリプタンとの併用も有用であり,筆者はこれを「ハイブリッド頭痛治療」と命名している2)。 片頭痛は若い世代の罹患率が高く,小児期・青年期の安全性に加え,挙子希望や授乳中の女性に対しても忍容性が求められる。
トリプタンは12歳未満では使用不可,妊婦には禁忌であり,CHAMP試験3)に代表されるように,小児・青年期に頻用されている一部の予防薬には副作用が多いことも報告されている。加えて,小児の片頭痛ガイドラインではアセトアミノフェンやイブプロフェンが海外同様第一選択薬とされているが,成人になるにつれ薬効が減弱する消炎鎮痛剤を小児期から推奨することは,将来的な薬物乱用頭痛の温床になり得ると筆者は懸念し警鐘を鳴らし続けている。
「漢方薬にも副作用はある」というのは事実である。が,五苓散と呉茱萸湯には甘草,柴胡,黄連,黄芩などの生薬は含まれておらず,現状,大きな副作用の報告はない。症例を選ばず医療者が安心して処方が可能と筆者は考えている。当院のモットー「頭痛は鎮痛剤ではなく漢方薬で治そう」が頭痛治療の世界に広まってゆくことを切に願っている。