腎代替療法の選択は,患者の生活の質(QOL),生命に大きな影響を与えるものである。医学的状況と患者の価値観,意向にそって患者にとって最善の選択を目指したい
最善の治療選択にあたっては,医療者と患者が医学的情報,患者の価値観,生活スタイル,懸念事項を共有し,協働で決定に至る「共同意思決定(SDM)」プロセスが望ましい
末期腎不全に至った場合に,腎代替療法を選択するか,あるいは透析をしない支持療法(保存的腎臓療法)で人生の最終段階を迎えるかの決定は,患者だけでなく家族の人生をも大きく左右するものである。人生観や生活スタイルは人それぞれであり,海外の状況から見ても一定の割合で腹膜透析や腎臓移植を選択する患者はいるはずであるが,わが国では97%が血液透析を行っているという特殊な状況にある1)2)。
その一因として,腎代替療法の選択提示は,インフォームド・コンセントに基づいているとはいえ,「医療者と患者・家族が十分な話し合いを重ねた上で,患者にとって最良の治療法を選択し,さらにその決定の是非を再評価する」という共同意思決定(shared decision making:SDM)プロセスに基づいていないことが考えられる。
本稿では,SDMに基づく腎代替療法の選択プロセスの重要性と課題について概説する。
日本透析医学会の統計調査によれば,2017年末時点で,わが国の慢性透析患者総数は33万4505人であり,治療成績,患者の生命予後も世界最高水準にある。同年の新規透析導入患者数は4万959人で,平均年齢は69.7歳であるが,最も割合が高い年齢層は男性が75~79歳で,女性は80~84歳と高齢化している。腎代替療法の選択は94.8%が血液透析で,腹膜透析や移植の普及率は諸外国に比べ著しく低い(図1)1)2)。腎代替療法に占める腎臓移植の比率は,北米や欧州ではほぼ40%以上であるのに対し,わが国はわずか3%であり,腹膜透析も北米と北欧が約10%であるのに対し,わが国では3%にすぎない。腎臓移植や腹膜透析の医学的成績は世界のトップレベルにあり,保険制度上も腎臓移植や腹膜透析を選択する上で障害はない。しかし,腎代替療法選択決定にあたって,腹膜透析や腎臓移植の選択肢が適切に提示されているかどうかが疑問である。