わが国は透析大国といわれているが,腹膜透析(PD)や腎移植が極めて少ないことが問題点として以前より指摘されていた
2018年(平成30年)度の診療報酬改定では,PDや腎移植は血液透析(HD)に比べ,患者の生活の質(QOL)が高いことから,透析医療に係る診療報酬において,これらの推進に資する取り組みや実績等を評価することが明記された
2018年の改定では,患者に対する腎代替療法の説明を要件化するとともに,PDの指導管理や腎移植の推進に係る実積評価を導入し,これらについて実積のある施設に対しては,腎代替療法実積加算(月にHD患者ごとに100点を加算)を実現した
回復期リハビリテーション病棟,地域包括ケア病棟,特定一般病棟の入院料におけるPDに係る費用の包括を見直し,別途算定できるようにされた
PDが地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟で広く行われる可能性が示唆され,今後のPD患者の在宅への移行を強く推進する力となっている
2018年の改定で,超高齢社会に向けて国が地域包括ケアにあったPD療法を強く推進して行くことが明確に示された
2018年の改定は,PDや腎移植への療法選択を推奨するものではなく,PDや移植を希望する患者に対して導入できるよう各施設が努めるように推進するものである
2018年の改定は,今後の透析医療の方向性を明確に示したことが,高く評価できる。また,令和2年の診療報酬改定でも,この傾向は維持され,わが国の今後の方向性が明確に示されている
わが国では超高齢社会の到来に伴い,透析医療においても高齢化は重要な課題となっている。近年の透析患者の透析導入時の平均年齢は69歳を超え,いずれ70歳に到達しようとしている1)。さらに透析導入の原因疾患は糖尿病が第1位であり,心血管系を含めた多くの合併症を有する患者が増加している。今後これらの患者をどのように支えていくのかが,透析医療の重要な課題と言える。
今後わが国が進めていこうとする診療体系の政策に「地域包括ケアシステムの推進」がある2)。「地域包括ケアシステム」という用語が初めて使われるようになったのは2005年の介護保険法の改定後であり,今後少子高齢社会の進行に伴い予想される多くの問題を緩和するための方策である。まず,地域住民の介護や医療に関する相談窓口である「地域包括支援センター」の創設が打ち出されたのが最初であった。その後2011年の同法改正(2012年4月より施行)では,条文中に「自治体が地域包括ケアシステム推進の義務を担う」と明記され,自治体に地域包括ケアシステムの構築が義務化された。2015年の同法改正では,地域包括ケアシステムの構築に向けた在宅医療と介護の連携推進,地域ケア会議の推進,さらに新しい「介護予防・日常生活支援総合事業」の創設などが取り入れられ,国は地域包括ケアの推進にさらに力を入れた。2018年の診療報酬改定においても,今後めざす医療体制として「地域包括ケアシステムの推進」が明記されており,さらに今後の診療報酬改定も「地域包括ケアシステムの推進」が前提となる。では,「地域包括ケア」を基本とした「透析患者のケアシステム」とはどのようなシステムなのであろうか2)
地域包括ケアシステムとは,超高齢者が住み慣れた環境である地域の自宅で(あるいは施設で),日常生活を送っていくことを前提とするシステムである。超高齢者は多くの疾患を持病とすることが多く,また自力での生活維持が困難なことも多い。このような超高齢者を効率よくサポートするために,家族,医療機関,介護施設,さらに自治体等が協力して状況に応じて助け合いながら,サポートしていくことを前提としている。特に「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」といった5つのサービスを一体的に提供できる体制を構築しようとすること,それが地域包括ケアシステムである2)。
今後の透析医療に関しても,地域包括ケアシステムが前提となる。したがって,今後の透析医療の基本は在宅である。自宅から通院で透析を行う血液透析(hemodialysis:HD)は問題ないが,HDのために入院している超高齢患者も自宅へ戻ることが推奨される。在宅,そして地域や家庭でのアシストを基本とする透析であれば腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)が最適であることは,誰もが認識するところである。在宅のPD患者,さらに家庭血液透析(home hemodialysis:HHD)患者を「かかりつけ医」が「透析主治医」と連携して診療していくこと,これが今後の医療として最適なスタイルと言える。
地域包括ケアシステムを考えれば,在宅透析が最も推奨すべき方法であり,在宅療法が可能で自由度が高いPDは高齢社会を前提として,今後国が推奨していく透析方法のひとつである。