年齢を問わず,女性の「不定愁訴」の多くが更年期障害を疑い来院される。女性の不定愁訴症候群1)の代表的な疾患が更年期障害であるためだが,漢方医学はこれを「未病」という形ですくい上げ治療の対象としてきた。「女性は男性の2倍うつ病になりやすい!」といわれ2),身体化症状ともいえる不定愁訴についても「ホルモンバランスのくずれ」によるものと大雑把な理由で片づけられることが多い。
実際に漢方製剤には植物エストロゲン様作用を持ったり,体内に入ったのちにその代謝物がエストロゲン様の薬理作用を持ったりするものがある。機序は不明な点も多いが,当帰芍薬散や加味逍遙散,桂枝茯苓丸といった更年期障害に最も多く用いられる三大漢方薬のほか,月経不順や不妊症治療にも用いられる温経湯,産前産後などにも用いられる女神散等があげられる。しかし女性の不定愁訴は,ホルモンの変化が顕著でないときも認められる。ホルモン以外に何か大きな要因を見落としていないだろうか。
女性に用いられる漢方薬の多くが「血」を補っている。月経発来以後,男性と異なる点は「月経に伴う出血」である。出血量に個人差はあるものの,毎月20~140mL定期的に出血することで貯蔵鉄は男性の1/4~1/5になってしまう。鉄の働き(表)は全身に及ぶ。鉄がないと胃腸も弱るため,鉄分の摂れる肉や魚などより,消化のよい炭水化物・糖質に偏りがちである。鉄不足だけでなくタンパク不足も引き起こし,むくみを生ずる。このむくみこそが「水毒」につながる。ますます胃腸は悪くなり,冷えやめまいなどを引き起こす。抑うつにもつながる。また鉄分やタンパク質等がないと,神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンなども作れなくなり「気」の異常を引き起こす。
血液データは脱水により普段指標としているHbやTPが高めに出ることがあり現代の診断では見逃されやすい。こうした点も長年の英知の結集である漢方医学は見落としなく病める人々を救ってきている。