60歳以上の労働者数は1414万人,全体の2割を占める
高年齢労働者は比較的労働災害の頻度の高い業種に従事している
60歳以上の死傷災害発症率は50歳未満の約2倍である
加齢に伴う身体機能の低下度には個人差があるも不可避である
適正配置と職場環境改善の双方が重要である
少子高齢化の進展によって,高年齢労働者の雇用は増え続けている。神代1)は著書「高年齢労働者のための職場づくり」の中で,『高年齢労働社会における産業界は,バラツキのある労働力集団での生産活動を強いられようとしている。もはや集団の平均値を基準とする生産計画は困難な時代になった』と述べている。実際,高年齢労働者と一口にいっても個人差は大きい。また,仕事によって必要とされる能力も異なる。したがって,企業側には組織的な安全衛生の取り組みと,個々の状況に合わせた適正配置が求められる。また,労働者自身には己の特性を知ることと,低下を予防する行いが求められる。
1971(昭和46)年に成立した「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」よって,高年齢労働者は55歳以上と定められた。この法律は何度かの改正を経て,定年を定める場合は60歳を下回ることはできないこと,また,定年を65歳未満に定めた場合は,定年を引き上げるかあるいは継続雇用制度を導入し65歳まで安定した雇用を確保するための措置を講じることを定めている。そして,「日本再興戦略 改訂2015」において,「少子化対策,労働の質の向上および女性・高齢者等の一層の活躍促進」が重要政策のひとつに位置づけられた。さらに,「経済財政運営と改革の基本方針2019」において,定年延長や他企業への再就職など多様な選択肢を法制度で許容した70歳までの就業機会の確保を挙げるに至っている。
1971年当時の65歳の平均余命は男性が13.1年,女性が16.0年であった。そして最新(2018年)の65歳の平均余命は男性が19.7年,女性が24.5年となっており,半世紀で男性は6.6年,女性で8.5年延びている。2025年問題(労働生産の現役世代の減少が加速)や2040年問題(現役1.5人が高齢者1人を支える)がいわれ,1人の高齢者を1人の現役世代が支える社会のイメージが定着している。しかし,65歳以降の人生すべてが肩に担がれる必要はなく,労働能力が維持される限り,働く場が提供される時代になりつつある。