維持透析治療は平均週3回,永続的に通院が継続される。その間,日常生活ではカリウム摂取制限のため,野菜・果物などの繊維物質が多い食物の摂取不足に陥り,加えて飲水にも摂取制限がある。また,腎機能低下に伴う高リン血症の治療にリン吸着薬が投与されることが多い。これら諸種の食事制限や薬剤の副作用により,維持透析患者の便秘症合併は高率に存在する。
かつて,本例を含む当院通院中の透析患者14名を対象に,自覚していた排便困難(便秘症)に対する潤腸湯(5.0~7.5g/日)の効果を検討し報告した1)。排便状態判定では,生活状態の指標として排便回数や排便に要する時間,下剤の使用などをスコア化したconstipation scoring system(CSS)を,便形状はブリストル分類を用いた。その結果,CSSは服用前後で中央値14点から4点へと低下した(図左)。ブリストル分類も平均1.4点から4.3点へと改善を示した(図右)。
潤腸湯は,麻子仁,杏仁,桃仁,当帰,地黄,枳実,厚朴,黄芩,甘草,大黄の10生薬から構成される。明時代の『万病回春』を出典とし,虚証の弛緩性便秘,体液枯燥と腸内の燥熱する者に用いられる。滋潤作用を有する生薬が多く,皮膚・腸内ともに乾燥傾向である透析患者の便秘には本剤が万事都合のよい適応と考えられる。
透析患者や高齢者には,兎糞状硬便となる腸内乾燥性便秘症が多く見られる。漢方薬は便秘の性状によって使い分けると効果的であり,この症状には潤腸湯・麻子仁丸を用いる。潤腸湯は効果発現が遅いため,すぐに断念せず7~10日の継続を推奨する。
センノシドなどの刺激性下剤により腹痛・腹部膨満感を生じる痙攣性便秘症には,大建中湯・桂枝加芍薬湯を用いる。
このほか,蠕動低下による弛緩性便秘症には,十分量の大黄を配合する桃核承気湯・大黄牡丹皮湯などを用いる。