芍薬甘草湯は,こむら返りの特効薬としてよく知られていますが,筋肉に由来すると思われる疼痛に効果を示します。同様の薬剤として「ミオナール」「リンラキサー」などをよく使用してきましたが,芍薬甘草湯はより速効性で,横紋筋にも平滑筋にも効果を示します。腹痛に使用することもあります。しかしながら腰痛の強いときには芍薬甘草湯のみでは力不足で,私の場合はNSAIDsを併用します。
一般に腰痛に対しては八味地黄丸(8),当帰四逆加呉茱萸生姜湯(9),疎経活血湯(17),桃核承気湯(5),五積散(16),通導散(10),牛車腎気丸(10),苓姜朮甘湯(4)といった方剤が推奨されています(括弧内は含まれる生薬の数)。ここで注目すべきは構成生薬の種類が多いことと駆瘀血剤が中心になっていることです。
推奨薬剤の中で,構成生薬の少ない桃核承気湯は主に高齢者の便秘に使用されることが多いと思いますが,駆瘀血剤としての効果は強いとされています。また苓姜朮甘湯は,腰から下が水にでも浸かったように冷たいという訴えに用いるとされています。それ以外は多数の生薬を含んでいます。
つまり,腰痛に関してはその原因も多岐にわたり,椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症,筋・筋膜性腰痛,椎間関節症,骨粗鬆症の椎体圧迫骨折,変形性関節症,他の整形外科疾患も含め,婦人科疾患,心理的要因による腰痛といった様々な点から考える必要があると言えます。悪性腫瘍の骨転移のこともありますね。
女性の場合は瘀血を背景として,下肢のしびれや痛みを訴えることもあり,上記に提示したような方剤には駆瘀血剤として使用される薬剤も含まれています。疎経活血湯,五積散,桃核承気湯,通導散などはもちろん,桂枝茯苓丸,当帰芍薬散,治打撲一方といった方剤で腰痛が改善する例もあります。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は体を温める処方としてよく用いられます。腰痛に冷えが関係していると考えれば,附子を含むような方剤の選択もあります。あるいは腰痛に心の関係を疑う場合には抑肝散が著効する例もありました。
本症例では,当初の痛みには,筋肉を緩める意味での芍薬甘草湯とNSAIDsを短期間使用し,それをベースとして疎経活血湯を選択しました。疎経活血湯は含まれる生薬の数が多いため,効果の発現は穏やかで,いつの間にか落ち着くといった効き方がみられます。四物湯を含むため,血虚を背景とした兆候に有用とされています。しかし2週間の内服で効果がはっきりせず,「朝からの腰痛」をkeyとして,寒冷を背景とした兆候に有効とされる五積散に変更したところ,翌週から改善効果が見られました。NSAIDs自体は2週目から頓用に変更し,4週目には中止。五積散も腰痛改善とともに廃薬としています。
腰痛は原因が様々で対応も多様となりますが,多数の生薬を含むこれらの方剤で経過を見ながら要因を探ることもあろうと考えます。