急性膀胱炎(急性細菌性膀胱炎)の治療では,感受性のある抗菌薬を内服投与するとほとんどの患者において尿検査,自覚症状とも改善する。しかし,尿検査の結果が正常化したにもかかわらず,自覚症状が完全に改善しない患者も存在する。このようなときに威力を発揮するのが漢方治療である1)。
膀胱炎や膀胱炎症状のみ遷延する患者に猪苓湯を用いることは周知されている1)。しかし,神経質で胃腸虚弱な患者には清心蓮子飲の有効性が高い2)3)。
清心蓮子飲は,9種類の生薬から構成されている。熱や腫れを引く黄芩・麦門冬,尿の出をよくする茯苓・車前子,滋養強壮作用の人参・黄耆,気分を落ち着ける蓮肉などが配合されている。また,茯苓・黄芩・人参・甘草は胃腸障害にも有効で,かつ地黄を含んでいないことが胃腸虚弱な体質に適応となるゆえんである2)。「和剤局法」に原典があり,全身倦怠感があり口や舌が乾き尿が出しぶるものの残尿感,頻尿,排尿痛に有効である4)。膀胱炎の窮迫症状にはやはり猪苓湯を用い,炎症がはっきりあるものは五淋散を用いる5)。
日常診療において膀胱刺激症状を中心としたさまざまな愁訴を持つものの,尿検査所見をはじめとして検査所見に異常が認められないか,多少の異常はあるものの,それによって病状の説明がなしえない患者に遭遇することが少なくない。一般的に尿路不定愁訴と呼ばれ,その治療には多くの医師が苦渋する。
抗コリン剤無効の頻尿患者や精神的なストレス下,冷え症で寒冷刺激に伴い尿路不定愁訴を訴える患者は西洋薬で効果がないことが多く,このような場合に漢方治療を選択する。清心蓮子飲は比較的虚弱で,胃腸が弱く,精神的なストレスなどにより尿路不定愁訴がみられる方によく用いられる2)3)。
尿路不定愁訴に用いる漢方薬は,証によって使い分けるとより効果的である。代表的な漢方処方と使用目標は表のとおりである。漢方治療で効果がみられないとき,その背景に膀胱癌や尿路結石などの疾患が隠れていることがあることから,専門医への紹介を勧める。