小児急性中耳炎の治療アルゴリズムによると,軽症例で抗菌薬の非投与,3日間の経過観察を除くとあらゆる段階で抗菌薬の使用が推奨されている。
ただ,ほとんどの急性中耳炎においてウイルスと細菌は混合感染しており,RSウイルス,インフルエンザABウイルス,アデノウイルスなどが主要なウイルスとして報告されている(第16回日本耳科学会総会・学術講演会ランチョンセミナー)。気道のウイルス感染により,耳管機能障害(上皮障害,繊毛機能障害,さらにそれに伴う中耳の陰圧)などが引き起こされ,患児の好中球機能の低下などの防御機能の変化が起こるとともに,肺炎球菌やインフルエンザ菌などの中耳炎起炎菌の鼻咽腔増殖を促進することが明らかにされている。
病態がウイルス感染主体である場合には抗菌薬は無効であり,また小児への抗菌薬使用の影響として気管支喘息,牛乳アレルギー,肥満,炎症性腸疾患などが現れる恐れが報告されていることから,効果がないからといって闇雲に抗菌薬を変えて連用することは好ましいとは言えない。またAMR(薬剤耐性)の観点からも抗菌薬の適正使用は医師としての責務である。
急性中耳炎の診療ガイドラインでは,漢方薬による治療は反復性中耳炎において十全大補湯が「推奨の強さ:推奨」「エビデンスの質:B」と記載されている(表)。十全大補湯は免疫力を高めることが知られているが,抗ウイルス効果という点では効果は期待できず現在感染が起こっている状態ではあまり適さないと考える。
診療ガイドラインには葛根湯についての記載はないものの保険適応病名には中耳炎が記載されており,抗菌薬の使用が推奨されていない軽症例においてウイルス感染を念頭に葛根湯が処方されるケースもある。ただ本症例のように抗菌薬を多用された症例においても葛根湯が奏効する例もあり,難治例に対しても考慮すべき方剤であると考える。
急性期の治療が済んだ症例で,急性中耳炎を繰り返すような患児には十全大補湯の投与がよい。十全大補湯が味の問題で飲めない場合は,補中益気湯や小建中湯,黄耆建中湯などで代用することも可能である。