足底腱膜炎は,様々な疾患群を内包した診断名であることを念頭に治療を行う必要がある
足底腱膜実質には顕著な変化が生じていない症例も多いことが,近年のMRI所見の解析から明らかとなってきている
簡単な運動療法の指導や簡易クッションの使用で症状が軽快することが多い
整形外科の日常診療の中で踵部痛を訴える患者に遭遇したとき,慎重に鑑別診断を行わずに“足底腱膜炎”と診断されていることは多いようである。踵部痛を主訴とする疾患は足底腱膜炎以外にも,踵骨疲労骨折,足底線維腫,滑液包炎(踵骨のアキレス腱付着部に関連するもの),など多岐にわたり,踵部疼痛症候群(heel pain syndrome)と称されるようになってきた1)。同様の部位に疼痛を引き起こす疾患が多数存在していることを念頭に,足底腱膜炎の病態をよく理解しておくことが必要である2)。
足底腱膜炎の主要症状は起立歩行時の疼痛であるが,特に朝起床時に臥床しているところから(あるいはしばらく坐位を保持している状態から)立ち上がろうとするときに,踵骨部痛が生ずることが特徴的である。しばらくそこに体重をかけて歩くことが困難になるが,なんとか動いているうちにあまり気にならなくなる,といったように,症状が変動することもよく知られている。発症年齢は当院での調査では50歳代の男性が最も多く,女性には年齢差は明らかでなかった(図1)。一方スポーツ選手では,活動中から痛くなり始めてだんだん悪化し,場合によっては活動を一時中断せざるをえないという症状発現様態を取ることが多い印象がある。こうしたことからすると,本格的なスポーツ選手と一般の患者とは病態が若干異なっている可能性も否定できない。
足底腱膜炎の臨床所見では,踵骨底部の踵骨隆起内側突起部より若干前内側に寄った部分に圧痛が一番強く出現する。また,発赤はなく同部の腫脹は軽度であることが多いが,健側に比べると(両側発症は少ないとされる),踵部の皮下組織が全体的に緊満し(図2),踵部の軟部組織を内外から徒手的に圧迫すると疼痛が誘発されることが多い(図3)。筆者はこれを踵部圧迫テストと称して診断の一助として利用している。
画像診断では,踵骨の単純レントゲン所見で踵骨棘が認められることが多いとされてきたが,近年の研究では踵骨棘があるからといって必ずしも疼痛が出現するわけではなく,疼痛との関連も疑われ始めている。近年ではMRI所見による解析が進められてきており3)4),様々な所見が報告されている(表1)。またこうした画像診断の進歩の中で,筆者が足底腱膜炎と診断した患者では,前述のように踵骨周囲軟部組織のびまん性腫脹が認められ,MRI所見では足底腱膜には何ら異常所見が見出せないが,踵骨周囲の軟部組織内の間質浮腫を疑わせる所見が得られている(図4,5)。
踵骨周囲の軟部組織の解剖学的構造は,脂肪組織が小さな区画に細かく区分されるという特徴があり,その区画間の間質に腫脹が生じて内圧が上昇することで疼痛が出現するのではないかと推定している。