脂漏性皮膚炎とは,脂が漏れる皮膚炎と書きますが,文字通り皮脂の分泌が活発な部位によく起こる疾病です。
好発部位は,頭皮,鼻翼部や眉間,前額部,耳介後部であり,時には腋窩や鼠径部にも生じる皮膚炎です。紅斑や落屑など湿疹性の病変を形成し,瘙痒はあまりみられないか,軽度です。原因は皮膚の常在菌,ストレスなどによる皮脂の成分・分泌の変化や発汗,ビタミン代謝などの要因に加えて,体質にも関係するためなかなか完治しにくい疾患でもあります。
多くの場合,皮脂中のトリグリセリドが常在酵母菌であるマラセチア属により分解され生じる遊離脂肪酸により様々な症状を起こすと考えられています。また,不規則な生活やバランスの悪い食事,仕事などのストレスによって,ビタミン代謝が変化すると悪化する傾向にあります。
元来アンドロゲンによる皮脂分泌量の多い男性に好発するとされていた疾患ですが,コロナ禍において,ストレスの増大や,疲労,マスクによる皮膚の環境悪化などにより,臨床の現場においては働き盛りの多忙な世代である20~50代の女性患者も増えている印象です。
脂漏性皮膚炎は日常の皮膚科診療においてよくみられる疾患です。治療の基本は,洗顔洗髪などにより清潔に保つこと,ケトコナゾールクリーム外用,紅斑など症状の強さに応じてステロイド外用剤を併用します。また,ビタミンB2B6製剤が有効である症例もあります。これらを組み合わせた西洋医学的な治療が基本ですが,脂漏性皮膚炎のような慢性な経過をたどる皮膚疾患においては漢方製剤の併用が有効であることもしばしば経験します。
日常診療においても,舌診で簡便に瘀血の存在を確認できます。舌下静脈が怒張していれば瘀血の重要なサインです。
当院を受診される20歳以上の成人女性の診察において舌下静脈を確認すると,程度の差はあれかなりの確率で瘀血の存在が確認できます。また,月経随伴症状や冷え症,静脈瘤などの存在も問診にて簡易に探ることができます。脂漏性皮膚炎の増悪因子としてストレスも挙げられますので,イライラ,不安などの精神症状を訴える人には,皮膚疾患の有無にかかわらず加味逍遙散の投与を一考してもよいかと思います。
精神症状の訴えのない方については桂枝茯苓丸加薏苡仁も良い適応です。薏苡仁の抗炎症作用,角化抑制により肌の調子がよくなったと言われる方も多いです。