逆流性食道炎は,日常診療では極めて頻繁に遭遇する疾患である。内視鏡的にしっかり所見のある重症型は胃酸分泌抑制剤(PPIなど)によく反応し治療はむしろ簡単である。しかし臨床現場では,軽微な内視鏡所見にもかかわらず症状が強いケースや,内視鏡では全く正常なのに症状があるNERD(非びらん性胃食道逆流症)のケースがしばしば見られる。このように内視鏡所見と自覚症状が乖離している場合には症状コントロールに難渋する。
そもそも逆流性食道炎は胃酸による化学的刺激だけではなく,消化管内に胃酸以外の液体や気体が逆流停滞することによる物理的刺激,その刺激に対する局所粘膜の過敏性,さらに心理的過敏など,1人の患者の中で様々な要因が絡んで症状をなしていると思われる。しかし西洋医学では現時点では,PPIやH2受容体拮抗剤のような胃酸刺激を和らげる治療しか確立していない1)。そのため漢方薬には,西洋薬の不備を補う大きな役割が期待されている。
本症例の患者は,虚弱ではなくむしろ赤ら顔で実証タイプ。傷寒論の「胸中熱あり,胃中邪気あり」,方函口訣の「上熱下寒」と判断し黄連湯を投与したところ10日間でハッキリと手応えが見られた。そして前医でPPIが全く効かなかったのに黄連湯服用中は胃酸分泌抑制剤も有効となり,併用で完全に症状コントロール可能となった。本症例に限らず筆者は,元気そうないわゆる営業マンタイプで赤ら顔,痛みもある逆流性食道炎には黄連湯を第一選択にしている。 逆流性食道炎に対し筆者は二陳湯,六君子湯,茯苓飲,半夏厚朴湯なども繁用している(表)。ほかに半夏瀉心湯や茯苓飲合半夏厚朴湯などが有効な場面も考えられる2)。漢方はあくまでも隋証治療である。
これらの使い分けは少々勉強して経験を積まないと難しいが,まずはいろいろな方剤があると知っておいて実際に使ってみるのが上達の早道と思われる。また逆流性食道炎では多くのケースで胃酸が悪影響をしている。だから漢方だけで完璧に治療しようと欲張るよりは,胃酸分泌を抑えておいて漢方も使うというスタンスの方が実際的だと考えている。