月経困難症には,若い世代に多い器質的原因の認められない機能性月経困難症と,器質的疾患(子宮筋腫,子宮内膜症など)に起因する器質性月経困難症がある。
機能性月経困難症は,子宮内膜で産生されるプロスタグランジンによる子宮平滑筋の過度の収縮と,血管攣縮に伴う子宮筋の虚血が原因と考えられている。
「産婦人科診療ガイドライン─婦人科外来編2020」には1),治療について,鎮痛剤(NSAIDsなど),低用量ピル,ミレーナ®がB推奨であり,鎮痙薬とともに漢方薬もC推奨と記載されている。
若い女性には,低用量ピルの鎮痛効果が高く,月経量減少,子宮内膜症の発症予防,月経周期調節などの副効用もあり用いることが多いが,漢方医学的に考えれば,「痛み」は心身のバランスの崩れのサインである。そのサインをキャッチしバランスを整えることで他の不調が改善することもあり,それはとりもなおさず命をつなぐ使命を持つ女性の健康を支えることになる。
黄帝内経には「通則不痛,不通則痛」と書かれており,気・血・水の流れの滞りは痛みに通じる。月経に随伴していることからも,月経困難症の背景にはまず瘀血の病態がある。桂枝茯苓丸は,桂皮,芍薬,桃仁,茯苓,牡丹皮の5種の生薬からなる,標準的な駆瘀血剤である。機能性月経困難症のみならず,器質性月経困難症に用いても症状をとる効果があり,子宮筋腫,子宮腺筋症を縮小させたという報告もある2)。したがって,桃核承気湯,加味逍遙散,当帰芍薬散といった駆瘀血剤は証に従って選択し,有効である。
同じく黄帝内経に「不栄則痛」,気・血・水の不足も痛みに通じると書かれている。血虚を改善する温経湯も証にかかわらず有効であったとの報告がある3)。
冷えも月経困難症を増悪させる因子であり,冷えの強い者には当帰建中湯を処方して効果的である。また強い急性の痛みには芍薬甘草湯が有効で,平滑筋の収縮を抑制するだけでなくプロスタグランジン産生抑制作用も報告されている4)。
毎月繰り返される「痛み」は,こころにも影響し,またこころの不調から痛みが増強することも多い。「心身一如」の漢方薬はこころにも効くことが多い。また漢方の持つ聴く力,言葉の力が,癒しになり,自分の心身への信頼感につながればうれしいと常々感じている。