半夏厚朴湯といえば咽喉頭異常感症に使う薬と理解している人は多いだろう。だが,それだけだと応用範囲は狭い。半夏厚朴湯の効能・効果に「不安神経症」「不眠症」があるのをご存知だろうか。さらにいろいろな身体症状を執拗に矢継ぎ早に語る身体症状症患者で,訴えの1つに喉の狭窄感が含まれていれば,その場合も半夏厚朴湯の良い適応である。
身体症状症患者の中には,思考の破局化(反芻,拡大視,無力感)がみられ,それが身体症状を苦痛なものにし,抑うつ,不安感をさらに悪化させていることがある。このような患者に対する漢方治療は半夏厚朴湯などの気剤を第1選択薬として検討し,加えて生活指導,心理療法を通して自分を冷静に客観視できるよう指導することが重要である。
本症例のように咽喉頭異常感を訴える者の後頸部は凝っていることが少なくないが,その程度が強い場合は柴朴湯,不安によって疼痛がひどくなる場合は芍薬を含む漢方処方,ストレスで症状が悪化する場合は柴胡剤,のぼせの症状があれば女神散,加味逍遙散などを考慮する。動物実験でも多くの気剤に抗うつ様作用,抗不安作用が存在することが示されており,その機序も明らかにされている(表)。