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【識者の眼】「救急・集中治療終末期ガイドライン改訂③─Shared decision makingのための技術」伊藤 香

No.5220 (2024年05月11日発行) P.62

伊藤 香 (帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)

登録日: 2024-04-24

最終更新日: 2024-04-24

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Shared decision making(SDM)とは、患者・家族とのコミュニケーションを通じて、患者の価値観や選好を医療上の意思決定に取り込んで、治療のゴールを決めていく過程のことである。今回のガイドライン改訂のハイライトの1つは、「救急・集中治療医療従事者に対するSDMのためのコミュニケーションスキルトレーニングの推奨」を盛り込むことである。

ほとんどの患者は、自分のケアに関する意思決定をする際に、個人の目標や価値観を反映させることを望んでいる。また、ケアの非専門的な側面に関しても、医療者と患者・家族間でコミュニケーションをとることで、患者の満足度が向上し、健康状態に良い影響を与えることも報告されている。

しかしながら、医療の世界では歴史的に権威的な医師と受動的で受容的な患者という構造(“医師のパターナリズム”と言われることもある)が根深く存在し、医師が患者・家族の価値観を引き出しながら治療方針を提示していくためのスキルは近年まであまり重要視されてこなかった。

そんな中、米国集中治療医学会は2008年に発行した“Recommendations for end-of-life care in the intensive care unit:a consensus statement by the American College of Critical Care Medicine”1)と2017年に発行した“Guidelines for Family-Centered Care in the Neonatal, Pediatric, and Adult ICU”2)において、集中治療医療従事者が意思決定のためのコミュニケーションスキルトレーニングを受けることは、患者・家族との会話の質の改善や集中治療室在院日数の減少などの効果が見られるため、推奨すると明記した。

米国では、医療従事者向けのコミュニケーションスキルトレーニングがいくつか存在する。その1つである“Vital TalkTM”は、もともと腫瘍内科医が患者にがんの告知などの「悪い知らせ」を伝えるときの会話のトレーニング法として開発されたものだ。筆者は2019年以来、“Vital TalkTM”の日本語版である「かんわとーく powered by Vital TalkTM」の開発に携わってきた。日本人受講者を対象とした調査では、トレーニングに使用されるシナリオや教育方法は日本人にも適していると評価され、受講生の満足度、意思決定支援のための会話を行うための自信は受講後に有意に改善した3)

Vital TalkTMが提唱する、SDMのためのロードマップ“REMAP”は特に重要である4)。REMAPとは、Reframe the situation(状況の変化を伝える)、Expect emotion(感情に対応する)、Map out important values(重要な価値観を掘り下げる)、Align with the patient & family(患者の価値観に基づいた治療の方向性を確認する)、Plan treatments to uphold values(具体的な治療を計画する)─の頭文字をとったものであり、集中治療医療従事者が身につけるべき患者の価値観を重視したSDMのための手法と言える。

今回のガイドラインの改訂で、米国集中治療医学会のそれのように、SDMのためのコミュニケーションスキルトレーニングの推奨を明記することにより、日本の医療従事者が集中治療終末期患者本人の意思や価値観を中心にした意思決定支援を行うことができるようになり、患者にとってもより良い終末期を提供できるようになることを切に望む。

【文献】

1)Truog RD, et al:Crit Care Med. 2008;36(3):953-63.

2)Davidson JE, et al:Crit Care Med. 2017;45(1):103-28.

3)Ito K, et al:Am J Hosp Palliat Care. 2022;39(7):785-90.

4)Childers JW, et al:J Oncol Pract. 2017;13(10):e844-50.

伊藤 香(帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)[コミュニケーションスキルトレーニング]

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