頸椎椎間板ヘルニアによる激烈な上肢痛・肩甲部痛には,どのように対応すればよいでしょうか。痛くてMRIを撮影できないほどの症例もあります。最近は強力な鎮痛薬も市場に出ていて,従来のような経口もしくは坐薬のNSAIDs以外の持ち駒が増えています。頸部の安静の仕方や注射療法,入院の適応,さらには手術のタイミングなどを含め,東北中央病院・田中靖久先生にご回答をお願いします。
【質問者】
星地亜都司 社会福祉法人三井記念病院 副院長・整形外科部長
頸椎椎間板ヘルニアに由来する頸部神経根症の急性例で,確かに上肢や肩甲部の痛みが激烈なあまりに,「この痛みがとれるなら,腕をもいでくれてもよい」といった不穏当な訴えをする患者を,これまで複数経験しています。あるいは尋常でない痛みのために,不治の病に罹患したと疑心暗鬼に陥る場合が稀ではないようです。そのような例でも,手に脱力や巧緻運動障害をきたしているC8神経根症を除いては,まず保存療法を行うのが原則と考えます。
患者の不安解消のためには,保存療法後にたどる一般的な経過を説明することが重要です。重症の急性例でも,治療を始めて4カ月の間に改善が著しいこと,治療後の経過中に増悪する例は皆無と言ってよいこと1),いったん十分に改善すれば再発の頻度が低いことを伝えます。日常生活上の指導も肝要です。頸椎の後屈が神経根の圧迫を強め,改善の遅れをきたしうることを話します。中には枕に関して誤解している人がいます。姿勢を正すべきと考えて枕を使わなかったり,前弯すなわち伸展位を保とうとして,項部に高まりをあてる特殊な枕をわざわざ使用している例もみられます。神経根の圧迫を弱めるために,枕は高めが良く,少なくとも低めのものは禁物です。消炎鎮痛薬の投与や頸椎カラーによる固定で改善がみられなければ,入院の上,神経根の圧迫を弱める位置でのGlisson持続牽引と神経根ブロックを併用する必要が生じます。
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