認知症の加療中に,「なんとなく元気がない」「疲れる」「食欲がない」といった訴えが続き,その後,体重減少・筋力の低下があり,ADLや認知機能が悪化する症例を経験する。このような症例では,その原因として認知症の進行によるBPSDの悪化のほかに,体調の不良(心不全,腎不全など),薬剤による副作用なども考慮する必要があり,その原因は多様で,なおかつ複合的な場合もある。このような経過を示す認知症高齢者では抗認知症薬,特にコリンエステラーゼ阻害薬の長期服用が原因で衰弱や食欲不振をきたす場合があり,高齢になるほど注意が必要である1)。
人参養栄湯は,アパシー・うつ・食欲不振といった陰性のBPSDだけでなく,認知機能の改善にも効果が期待できる漢方薬である。その効果は認知症が進行し,栄養障害による衰弱の治療のために経管栄養や胃瘻を考慮するような状態でも期待でき,経口摂取が可能となる症例もある2)。
食欲の低下,疲れやすさは老年症候群のフレイルの症状として重要である。フレイルは可逆性の病態で認知機能の低下の原因ともなる3)。人参養栄湯は,軽度認知機能障害(MCI)や認知症の初期で食欲の低下やアパシーがありフレイルが疑われるような軽症の状態から,体重減少による衰弱が認められるような重症の認知症高齢者の虚弱まで幅広く効果が期待できる漢方薬である。
まとめ
認知症高齢者の食欲低下,体重減少,認知機能低下には人参養栄湯が有効
投与量は1日6g分2を基本とするが,体力がない場合には1日3g 1回投与でも効果が認められる
フレイルによる食欲低下から,経管栄養や胃瘻を考慮する衰弱した認知症高齢者まで効果が期待できる