漢方薬は様々な風邪の症状に対して有効な治療薬が存在する。風邪の外来診療にはなくてはならない存在である。
風邪治療に処方される漢方薬は,今から1800年前に張仲景らによって編纂された世界最古の感染症診断治療マニュアル「傷寒論」に記載されている。「傷寒論」では,「傷寒」(風邪)を6つの病(病期)に分けて治療法を説明しているが,私は風邪診療では太陽病,少陽病,太陰病,少陰病の4つを覚えれば十分であると考える(表)。
太陽病は風邪の引き始めで,寒気を強く感じるため,体温上昇・発汗・解熱作用がある麻黄・桂皮の入った葛根湯で治療する。麻黄は副作用として胃腸障害が出るが,葛根湯には胃薬である大棗・生姜が入っているため使いやすい。しかしこの時期は,今回のケースのように自宅で解熱薬を服用することが多いため,葛根湯を処方することは少ない。
少陽病は風邪が治りきらず,夕方に微熱が出ているので,抗炎症作用のある柴胡・黄芩が入った小柴胡湯で治療する。この病は咽頭痛や咳などの症状が出る時期でもあるので,患者さんの症状に応じて治療に必要な生薬を追加して治療に当たる。咽頭痛の場合は,咽頭痛を改善させる桔梗の入った桔梗湯を追加処方する。咳の場合は,鎮咳作用のある半夏の入った半夏厚朴湯を追加する(小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方である柴朴湯を処方してもいい)。激しい咳のため胸痛を伴う場合は,小柴胡湯に胸痛を緩和させる栝楼仁などの入った柴陥湯を処方する。
太陰病は風邪で胃腸機能が低下しているので,胃腸機能を高める人参の入った補中益気湯を処方する。
少陰病は風邪で新陳代謝が低下しているので,新陳代謝を高める附子の入った麻黄附子細辛湯を処方する。
4つの病は図のように移行しながら治癒していくので,今回の症例のように風邪がどの病(病期)でどのような経過で治っていくのかを診断して漢方薬を処方する。抗菌薬などの現代薬との併用は全く問題ない。
まとめ
風邪は太陽病,少陽病,太陰病,少陰病に分けて治療する
少陰病では麻黄附子細辛湯を処方する
太陰病では補中益気湯を処方する
病(病期)の経過を予想して漢方薬を処方する