咳嗽は発症21日以内のものを急性,3週間以上8週間未満のものを遷延性,2カ月以上のものを慢性としている。咳の性状は,痰が少ないものを乾性咳嗽,痰が多いものを湿性咳嗽と呼ぶ。基礎に慢性呼吸器疾患の有無によらず,麦門冬湯をはじめとする漢方薬は臨床的に有効なことが多い。
麦門冬湯は急性から慢性に至る乾性の咳嗽に有効であるが,表に示すように感染後の遷延性咳嗽に高頻度に用いられ有効性が得られることが多い1)。慢性閉塞性肺疾患(COPD)24例を対象とする非盲検ランダム化クロスオーバー試験で麦門冬湯9g/日の16週投与は,無治療群と比較して投与初期(8週 vs. 0週)の咳の強度を有意に改善させた2)。いずれも日本呼吸器学会が出版する咳に関するガイドラインでクラスⅡレベルのエビデンスがある。
麦門冬湯はニュートラルエンドペプチターゼ(NEP)の作用を増強し続けることによって気道粘膜のC線維末端のサブスタンスPやニューロキニンAなどのタキキニンの分解を促進することで咳感受性を低下させ3),最近ではアクアポリン5に対する作用も話題になっている。臨床的にも気管支喘息罹患のカプサイシン感受性試験における咳閾値を改善する報告もある4)。
かぜ症候群にみられる遷延性の湿性咳嗽には清肺湯が有効である。清肺湯もCOPD 31例を対象としたコントロール研究(清肺湯群15例,非投与群16例)で,湿性咳嗽に対する有用性が確認されている5)。
気管支喘息や一部のCOPDなど慢性呼吸器疾患が背景にある症例では気道の過敏性亢進があるため,呼吸困難を伴う強い咳嗽を発生することもしばしば経験される。このようなときには麻杏甘石湯が有効である。
まとめ
乾性の咳嗽には麦門冬湯が有効
湿性の咳嗽には清肺湯が有効
呼吸困難を伴うような強い咳嗽には麻杏甘石湯が有効