頻尿,夜間頻尿や尿失禁を呈する患者は加齢に伴って増える。そのなかで,細菌性膀胱炎や膀胱の器質的疾患がないのに尿意切迫感があり,頻尿や夜間頻尿,切迫性尿失禁などの症状があるものを過活動膀胱という。
過活動膀胱には抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬が奏効するが,尿意切迫感のない頻尿,つまり過活動膀胱ではない頻尿には過活動膀胱治療薬の効果は限定的である。過活動膀胱ではないが頻尿を訴える症例には通常は猪苓湯が奏効する。
漢方薬はいくつもの生薬を配合しているので,生薬配分の近い漢方薬が多くあり,代表的疾患に対する漢方薬の処方は,似通っている漢方薬であれば当たらずといえども遠からずで,多少なりとも効果が期待できる。頻尿に対する代表的漢方薬は猪苓湯であり,猪苓湯と成分配分の近い漢方薬はいくつかある。それに対して同じ頻尿に対する漢方薬でも清心蓮子飲と桂枝茯 苓丸は猪苓湯と同じ成分は茯苓しかない。
猪苓湯はあまり証を考慮しないで使える良薬であり,細菌性膀胱炎でなければ頻尿治療のための第一選択の漢方薬である1)。しかし,過活動膀胱治療薬で効果がなく,猪苓湯でも効果がない場合には,清心蓮子飲か桂枝茯苓丸が選択肢となる。清心蓮子飲は比較的体力が低下した感じの色白タイプまたは血色不良で神経質な症例に向いており,桂枝茯苓丸は逆に赤ら顔でがっしりとした体形で比較的体力があり,下腹部に抵抗や圧痛がある瘀血の状態に奏効する。
過活動膀胱に対する効果は過活動膀胱治療薬のほうが切れ味が良いが,尿意切迫感のない頻尿には,これら3剤の漢方薬で多くの症例をカバーできる。
桂枝茯苓丸の効能・効果には,月経不順,月経困難,更年期障害などとあり,生理不順や更年期障害のある女性に対する処方のように思われがちである。しかし,上半身はのぼせ気味で下半身は冷え,下腹部不快感や排尿障害のある更年期以降の女性や慢性前立腺炎の男性に用いても効果を発揮する。