更年期障害を漢方医学的に考えるとき,多岐にわたる症状を気血水の概念で診断すると病状の把握がしやすい。
更年期障害では“気滞”と“瘀血”が中心となり気血水すべてに異常をきたしうるが,個人差も大きく,また個人のなかでも時間経過とともにその症状が移ろいやすい。その漢方治療には「不定愁訴の加味逍遙散」と言われるように,加味逍遙散が第一選択となるケースも多い。
本剤の出典は『和剤局方』で10種類の構成生薬からなる。表のように様々な作用を持ち,“気逆”と“瘀血”を中心としてほぼすべての気血水の異常に対応できる。また虚証~中間証とされるが,実際にはさほど証を問わず幅広く用いられ,その守備範囲は広い。だが実際には,加味逍遙散のみですべての症状が抑えられるケースは期待するほど多くはない。
ではどうするか。更年期障害と診断したら,病名投与でもかまわないのでまず加味逍遙散を処方してみる。効果判定は2週間後とする。この段階で全く効果がないようであれば証を再検討し変方する必要があるかもしれない。
ただしここで注意が必要なのは,「効果がない」と患者さんが言うことを鵜呑みにしないこと。再診時の主訴が初診時のそれと変わっていなければ,本当に効いていないのだろうと考えてよい。しかし主訴が変わっているようならば,初めの症状が改善されたがゆえに他の残りの症状を訴えている可能性もある。
今回のケースでは,初回の処方に対して患者さんは効果をあまり感じていなかったが,初診時に執拗に訴えていた首から上のほてりについては言及せず,頭痛について強く訴えていた。これは効いている可能性があると考え処方の変更はせず,残っている症状(頭痛)に対して再度診断し,それ(“水毒”)に対する処方(五苓散)を追加した。その後も同様に,寝つきの悪さは“気滞または血虚”と診断し,すでに加味逍遙散でカバーされていたため同薬で継続。最終的にすべての症状が消失した。