女性に多い泌尿器疾患の1つに膀胱炎がある。膀胱炎とは,細菌が尿道から膀胱に入り込み,細菌が繁殖して炎症が起き,排尿時痛や頻尿,残尿感などの症状が現れる病気である。女性は尿道が男性より短いために膀胱炎になりやすい。原因菌はブドウ球菌,大腸菌,プロテウスなどいくつもあるが,大腸菌が約8割を占めている。
治療には基本的には抗生剤が用いられる。JAID/JSC感染症治療ガイドでは単純性膀胱炎の場合,第一選択はLVFX(クラビット®)経口1回500mg 1日1回3日間,CPFX(シプロキサン®)経口1回200mg 1日2〜3回3日間,TFLX(オゼックス®)経口1回150mg 1日2回3日間となっている1)。妊娠している可能性がある人はセフェム系薬が推奨される。また,高齢女性(閉経後)における膀胱炎は治癒率が低く,再発率が高い。高齢女性は閉経前女性と比較して大腸菌におけるキノロン系薬の耐性率が高いため,セフェム系薬を第一選択とする。
しかし,抗生剤を内服して,検尿所見が改善しているにもかかわらず,膀胱炎症状を訴える人がいる。膀胱炎症状だけが残存しているような場合には猪苓湯を1~2週間内服させると改善する。
猪苓湯は猪苓,茯苓,沢瀉の利水薬と清熱作用(炎症を抑える)を持つ滑石,滋陰・止血作用を持つ阿膠よりなる。尿を出させ,炎症を抑え,出血を抑える作用により膀胱炎を改善させる。
炎症が慢性化し,体力が落ちて疲れや冷えがある場合には,補血作用のある四物湯(地黄,芍薬,当帰,川芎)を加えた猪苓湯合四物湯を用いる。それでも改善しない場合はやや体力が低下した人であれば五淋散を用いる。ただ,五淋散には地黄が入っているため,胃腸の弱い人には向かず,胃腸虚弱な人で神経質な人には清心蓮子飲を用いる。比較的体力があり痛みの強い場合には竜胆瀉肝湯を用いる2)。
1~2週間内服しても膀胱炎症状が続く場合には,膀胱癌や間質性膀胱炎,尿管結石なども疑われるので,それを念頭において尿細胞診や膀胱鏡,CTなどの検査を行うことをおすすめする。