2026年度診療報酬改定では、急性期病院を中心に物価対応のための点数引き上げが行われる見込みです。本体改定率は平均で+3.09%とされ、医療機関の人件費や物価上昇への対応が盛り込まれました。
これで経営も一息つける、と思っていたのですが、今度は取引先から相次いで値上げの相談が持ち掛けられています。「点数が上がるのだから値上げさせてほしい」という理屈は理解できますが、診療報酬の改定率が3.09%であるのに対し、委託先から10%以上の値上げ要求を受ける私の身にもなって頂きたい、というのが正直なところです。
このように、調達コストが次々に上昇していくインフレの時代には、「診療報酬改定で点数が上がったからこれで安泰」とはなりません。病院経営を安定的に継続していくには、不断のコスト構造改革が必要になります。
当院では2026年1月から、清掃コスト削減と生産性向上を目的にロボット掃除機の試験運用を開始しました。まず、スタッフゾーンで稼働させ、現在は病棟へと運用範囲を広げています。そこで見えてきたのは、「ロボットだけでは人間の仕事を完全には代替できない」という現実です。
業務用ロボットは広範囲の清掃には優れていますが、壁際や部屋の隅、机の下といった細部には対応できません。家庭用のものは小回りが利きますが、広い廊下の清掃には力不足です。結果として、広いエリアはロボットが担い、人間は週に数回、ロボットが届かない壁際やヒールマーク除去など細部清掃に特化する、という役割分担に落ちついています。
以前の「毎日清掃」と比べると、全体の清掃頻度は下がります。つまり、ロボットによる省力化を実現するには、「サービスレベルをあえて下げる」という経営判断が必要になります。心苦しい面はありますが、同じコストで同じ品質を維持し続けることが難しくなっている以上、「最低限クリアすべき水準」と「許容できる妥協点」をコントロールする視点が不可欠です。
3月から始めた病棟でのロボット掃除機の運用では、新たな課題も生じました。「掃除機の音が申し送りの妨げになる」という声が上がったのです。人間であれば「今は打ち合わせ中だから後回しに」と柔軟に対応できますが、プログラムされたロボットにその融通は利きません。幸い、申し送りの時間帯はほぼ固定されているため、その時間はスタッフステーションから離れたエリアを清掃するようルートを組み直し、現在も試験運用を続けています。
これまでの医療現場では、「医療業務が最優先で、付随業務はそのあと」という考え方が主流でした。しかし、限られた経営資源のもとでは、本来業務も付随業務も等しく「管理すべきコスト」としてとらえ直す必要があります。コストと効率を両立させようとすれば、現場との摩擦は避けられません。その際に重要なのは、「ゆずれないポイント」と「ゆずっても問題ない条件」を明確にすることです。あらゆる業務を聖域視せず見直していく姿勢こそが、持続可能な病院経営の土台になるのではないでしょうか。
藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長、医療経営士1級)[病院経営][診療報酬改定][インフレ]