Apple Watchの「家庭用心電計プログラム」と「家庭用心拍数モニタプログラム」は,医療機器プログラム(2020年9月承認)である。
医師はあくまで“補助的”に活用し診断に役立てる。ユーザー(患者)は自身の健康状態のために使用せず,体調の不具合は医師への相談を優先する。
家庭用心拍数モニタプログラムは,無症候性心房細動の検出に有用なツールとなりうる。
家庭用心電計プログラムは,心電図をPDFに出力できるため,ユーザーが正しく記録し専門医が読影することで,付加的な情報を得られる。
Apple Watchは様々なヘルスケアデータをユーザーの無意識のうちに収集しており,個々の生活習慣を直接反映したライフログとして健康増進に活用できる。
生活習慣病管理のため,患者に家庭での血圧や体重の計測をするよう指導しても,データ量は個人によって様々である。こうしたデータは,患者が意識的に測定し続けなければ蓄積されないからである。一方,ウェアラブルデバイスは,ユーザーが身につけている間中、個人のライフスタイルを反映したヘルスケアデータを“無意識”のうちに取得し続けており、具体的な生活改善案を提示する重要な情報源となりうる。
昨今,ウェアラブルデバイスのひとつである,スマートウォッチを利用する人が増えている。その理由は,その名の“時計”としてよりは,健康管理を目的とするユーザーが多いという。スマートウォッチのひとつであるApple Watchは,様々なセンサーや連携プログラムを駆使して,心臓関連以外にも,1日の歩数,歩行速度や距離,上った階数,エクササイズ量,消費カロリー,栄養摂取バランス,取り込まれた酸素や環境音レベル,睡眠など,非常に多くの活動データを収集する。さらに,座りっぱなしで一定時間経過すると立ち上がることを勧める通知や,エクササイズの目標達成を応援する通知を,メッセージや振動で伝えるなど,健康に対するユーザーの行動変容を「促す機能」が備わっている(図1)。また,最新のiOS15では,新たにヘルスケアデータの共有が可能になった。家族をはじめ,医師や介護者,理学療法士などと健康情報が共有できる。
こうしたヘルスケアデータはこれまで,その医学的意義や具体的な生活指導に活用する根拠に乏しかった。しかしながら,近年,ウェアラブルデバイスが取得するデータに質が伴うようになり,心臓に関するデータ収集機能に対しても進歩をとげた。2020年,Apple Watchのプログラムが医療機器プログラムとして承認され,ヘルスケアと医療の間の大きな架け橋となった。同時に,安全に有効活用するために,医師と患者の共通の認識が求められることとなった。そこで,本稿では,Apple WatchによるDigital Cardiologyのリテラシー構築のために,医師が今知っておくべきことを記す。
2020年,医療機器として承認されたのは,Apple Watchの2つのプログラムであり,Apple Watchそのものが医療機器となったわけではない。汎用機器であるApple Watchが情報を収集し,心房細動を示唆する結果を表示する医療機器プログラムとして「Appleの不規則な心拍の通知プログラム」と「Appleの心電図アプリケーション」が承認された。それぞれは,「家庭用心拍数モニタプログラム」,「家庭用心電計プログラム」という一般的名称を持つ(図2)。
「Appleの不規則な心拍の通知プログラム」とは,Apple Watchの光学式心拍センサーが記録する脈拍数に,不規則な心拍リズムがないかどうかをチェックするプログラムである1)。「通知」を有効にしておけば,意識的に記録をしなくても,Apple Watchが測定した脈拍に心房細動を示唆する不規則な心拍リズムが検出された場合,その旨を通知する。初めて利用する際には,年齢(22歳以上)と,心房細動と診断されたことがないことの確認に加えて,心房細動に関する病識教育を含めた使用開始ガイドが表示される。
226名の臨床試験では,Apple Watchと貼付型心電図を同時に1週間装着し,Apple Watchで心房細動の通知を受けたのは57名,一方,貼付型心電図で実際に心房細動だったのは45名で,心房細動についてのApple Watchの陽性適中率は78.9%だった。心房細動以外の不整脈を含めると98.2%(56名/57名)であった。また,計370件の通知のうち,87.0%(322件)が心房細動,12.7%(47件)が心房細動以外の不整脈,0.3%(1件)が洞調律であった1)。
同プログラムの添付文書には次のような警告文が記載されている。
・心房細動の兆候の検出を補助的に行うもので,医師の診断に替わるものではない。結果を元に,自分の健康状態の判断をせず,健康不具合の際は医師に相談する。
・既に不整脈の診断を受けている人が,この結果を自己解釈して,薬を変更するなど,自身の経過観察のために使用しない。
・心房細動以外の不整脈の検出はせず,常時監視もしないため,通知がないことは心房細動がないことを意味しない。
「Appleの心電図アプリケーション」とは,第Ⅰ誘導に類似した心電図を記録(図3)する家庭用のプログラムである。解析の結果を①洞調律,②心房細動,③高い心拍数,④低い心拍数,⑤判定不能,の5つに分類して表示する2)。脈拍数が50bpm以下,もしくは120bpm(バージョン2では150bpm)以上の場合,心房細動かどうかのチェックは行われず,「心拍数が50より下」,「心拍数が120より上」に分類される。
iPhoneのヘルスケアアプリから設定する際,年齢確認(22歳以上)と,心電図や分類結果に関する使用開始ガイドが表示される(図4)。測定の仕方は,Apple Watchを腕に装着し,Apple Watchの心電図アプリケーションを起動し,反対側の指をDigital Crown(竜頭)の上にのせ30秒安静を保つ。記録が終わると分類結果が表示され,症状を記録することもできる。
600名の臨床試験では,分類可能な心電図のうち,心房細動の分類感度は81.4%(236/290例),特異度は80.7%(238/295例)であった。心房細動と洞調律の2分類結果に限ると,心房細動の分類感度は98.3%(236/240例),特異度は99.6%(238/239例)であった2)。
添付文書には,「不規則な心拍の通知プログラム」と同様の警告文が記載されている。
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