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「天気痛」を教えて下さい[学術論文]

No.5172 (2023年06月10日発行) P.34

佐藤 純 (中部大学生命健康科学部理学療法学科教授/愛知医科大学客員教授)

登録日: 2023-06-11

最終更新日: 2023-06-09

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    天気の崩れで症状が悪化する慢性痛を,筆者は「天気痛」と名づけた。

    天気痛の頻発部位は頭部,ついで頸部・肩であり,これらで全体の59%を占める。一方で,頭痛の発症が明らかでなく,めまい,耳鳴り,倦怠感,抑うつなどの症状が強く出ている症例も少なくない。

    天気痛発症のメカニズムには,まだ明らかでない点が多い。しかし,内耳の過敏性が深く関わっている。

    天気痛の治療の原則は,発症を早めに“予測”して,症状の“予兆”時に対策を始め,痛みの悪化を“予防”する,「3-Y療法」である。

    3-Y療法を行う上で有益な発症予測モデル(天気痛予報)を構築した。

    はじめに

    気象の影響を受ける病気や症状として,慢性痛,喘息,めまい,低血圧,脳血管疾患,心疾患,うつ病など,多く知られており,総称して「気象病」と呼ばれる1)。中でも,筆者の専門である慢性痛は天気の崩れで症状が悪化することが多く,筆者はこのような病態を「天気痛」と名づけ,愛知医科大学病院疼痛緩和外科・いたみセンターの専門外来で診療してきた。筆者の天気痛診断の基準を,表1に示す。

    筆者のグループが愛知県尾張旭市で行ったアンケート調査(郵送にて実施,回答者数2628人)によれば,慢性痛(3カ月以上続く運動器の痛み)を持つ人が成人全体の39.3%(女性:41.1%,男性:36.8%)に上り,そのうちの約25%が“天気が悪いとき”あるいは“天気が崩れる際”に痛みが悪化すると答えている2)。また,2020年に筆者の監修でウェザーニューズ社らが行った全国調査(回答者数1万6482人)によれば,全体の約6割に天気痛の自覚があるという結果であった3)。インターネット調査であるため回答者に偏りがありうる点を考慮しても,わが国ではかなり多くの人が天気の影響を受ける痛みや体調不良を自覚していることがわかる。また,この調査によれば,地域別でみると“梅雨がない”北海道は他の地域と比べ天気痛保持者の割合が少ないことから,天気痛保持者は季節・気候の影響も受けやすいことが推察される。

    近年は異常気象が頻発しており,増大する環境ストレスに対して現代人の自律神経反応が脆弱になっている可能性も高いため,今後も発症数がさらに増加していくことが予想される。しかしながら,天気痛のメカニズムには不明な点も多く,予防治療法も周知されていないことから,対応に苦慮している臨床家も多いと思われる。そこで本論考では,天気痛の特徴,メカニズム,有効な予防治療法について,この病態に長年取り組んできた筆者の知見を述べる。診療の一助となれば幸いである。

    1. 天気痛とは

    天気の影響を受けやすい慢性痛としては,肩こり,変形性関節症,関節リウマチ,腰痛など,運動器に関する報告が多い1)。また,片頭痛や緊張型頭痛は天気との関連性がよく知られている。たとえば,20人の片頭痛患者に14日間,1時間ごとに痛みを記録してもらい,そのときの気温・気圧・湿度との相関をみたところ,気温と気圧が痛みに関与していた,と報告されている4)。当科初診の患者調査では,天気痛の頻発部位は頭部,ついで頸部・肩であり,これらで全体の59%を占める5)。一方で,頭痛の発症が明らかでなく,めまい,耳鳴り,倦怠感,抑うつなど,痛みとは一見無関係と思わせる症状が強く出ている症例も少なくない。

    疼痛の程度は中等度が多いが,破局的思考〔pain catastrophizing scale(PCS)による評価〕,すなわち痛みに執着する傾向が高めであり,また,自己効力感〔pain self-efficacy questionnaire(PSEQ)による評価〕,すなわち特定の目標を達成するために必要な,活動を遂行する自信の程度が低いことも明らかとなっている。

    これらのことから,自分では変えようがない「天気」に体調が左右されることで,認知の歪みが引き起こされ,「痛みのfear-avoidance(恐怖─回避)モデル」6)が生じやすい傾向があると言える。

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