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回虫症[私の治療]

No.5176 (2023年07月08日発行) P.46

新井明治 (香川大学医学部国際医動物学講座准教授)

登録日: 2023-07-07

最終更新日: 2023-07-04

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  • ヒトを固有宿主とする回虫(Ascaris lumbricoides)は世界中に分布し,発展途上国を中心におよそ10億人が感染している1)。幼虫形成卵で汚染された野菜などを経口摂取することで感染する。小腸で孵化した幼虫は肺へと移行した後に小腸に到達して成虫となるが,多数の幼虫が肺へ移行した場合に肺炎様の症状(Löffler症候群)を呈することがある。成虫の体長は20~30cmであり,少数寄生では無症状のことが多く,時に腹痛,下痢,食思不振を呈する程度であるが,多数寄生では腸閉塞をきたす場合がある。少数寄生であっても胆管や膵管への迷入により,胆管炎や膵炎を起こすことがある。
    日本における回虫感染率は第二次世界大戦後60%にも達していたが,人糞肥料から化学肥料への転換など,衛生環境の改善により激減した。ところが1990年頃から,家庭菜園あるいは有機農法・減農薬農法でつくった野菜の摂取に起因する例と考えられる回虫症が再び報告されるようになった2)。その後,有機農産物の規格化に伴って人糞使用が原則禁止されたことにより,市場に流通する有機野菜が感染源となる危険性は大幅に低減した3)。しかし,家庭菜園等,有機農産物としての認定を必要としない場合には上述の規制は適用されず,人糞を含む肥料を用いて生産された野菜による感染リスクは残存している。また,輸入野菜に付着した虫卵の摂取による感染の可能性も指摘されている。
    日本人旅行者が海外渡航先で感染する場合や,感染外国人が観光客や労働者として入国してくる場合もある。

    ▶診断のポイント

    【検査・診断】

    診断は糞便の直接塗抹法による虫卵の証明によるが,雄虫のみが寄生している場合や未成熟な雌虫が寄生している場合には,虫卵を検出できない。また,成熟雌虫のみの寄生では不受精卵だけが検出される。

    現在の日本では多数寄生となる可能性は低く,虫体の吐出あるいは排出,内視鏡検査や超音波検査で偶発的に虫体が見つかることで診断される症例が多い。こうした症例の多くは単数寄生であり,糞便検査で虫卵が検出されない場合も多い。

    稀ではあるが,国内でブタ回虫の成虫寄生例もみられることから2),虫卵による診断ができない場合には,虫体の形態的特徴あるいは遺伝子解析によって診断を確定することが望ましい。

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