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後期高齢者の脂質異常への対応

No.4765 (2015年08月22日発行) P.52

長尾元嗣 (日本医科大学付属病院糖尿病内分泌代謝内科)

登録日: 2015-08-22

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

「高血圧治療ガイドライン2014」(JSH2014)では75歳以上の降圧目標(150/90mmHg未満)が,74歳以下(140/90mmHg未満)と比べ緩和されています。一方で,「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」では,後期高齢者(75歳以上)に対する脂質管理目標値が設定されていません。しかし,今後,脂質異常症を有する後期高齢者が増加することが予想されます。後期高齢者の脂質異常に対して,健康寿命延伸,QOL改善の観点からどのように対応したらよいでしょうか。日本医科大学・長尾元嗣先生のご教示をお願いします。
【質問者】
田中正巳:慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 特任講師

【A】

加齢に伴い,総コレステロール値の上昇による心血管イベント発生の相対リスクの上昇はしだいにゆるやかになるものの,絶対リスクは上昇することがわかっています(文献1)。高齢者でLDLコレステロール(LDL-C)低下療法の効果をみた無作為化比較試験には,70~82歳(平均75歳)の高コレステロール血症の患者を対象としたPROSPER試験(文献2)があり,プラバスタチン投与により心血管イベント発症が有意に低下することが示されていますが,その効果は二次予防に限られたものです。現時点において後期高齢者に限ったエビデンスはほとんど存在せず,一次予防効果についてはわかっていません。
このような現状において,後期高齢者であっても脂質異常症治療,特にLDL-C低下療法を考慮すべき症例として以下の3つが考えられます。
まず,(1)二次予防の症例です。この場合にはLDL-Cの目標値は100mg/dL未満とすることが理想と思われます。
次に,(2)原発性高脂血症と考えられる症例に対しても,心血管イベントのハイリスク群と考えられるため,積極的な治療を行います。その診断には詳細な家族歴の聴取や,家族性高コレステロール血症を念頭に置いたアキレス腱肥厚や黄色腫の有無などの身体徴候の検索が必要となります。
最後に,(3)以前から脂質異常症治療薬を内服している症例に関しても,副作用が危惧される状況になければ治療を継続します。
(2)や(3)の症例のLDL-C管理目標値に関しては,前期高齢者と同様に60歳代の絶対リスクチャートを活用する方法のほかにも,LDL-Cの低下率20~30%を目標とすることも有用です。
実際の介入方法については,後期高齢者であっても生活習慣の改善が基本となりますが,後期高齢者ではエネルギー摂取量および全栄養素の摂取量が減少し,動物性脂肪やコレステロール摂取量も低値となります。したがって,食事制限によって低栄養状態に陥ることも危惧されるため,個々の患者の食事摂取状況に応じたアセスメントを行います。運動療法に関しても,個々のADLに合わせて指導を行う必要があります。
薬物療法が必要な場合には,高齢者での有用性と安全性が確認されているスタチンが第一選択と考えられますが,治療が長期に及ぶことが予想されることから,現在の肝・腎機能のみならず,予備能にも配慮する必要があります。副作用に関しては,横紋筋融解症や糖代謝異常は強力なスタチンで,腎機能障害は用量依存的に発現頻度が高いとされているため(文献3),安全性の高いプラバスタチンなどを少量(常用量の半分程度もしくは隔日投与)から開始し,必要に応じて増量や製剤変更を行うことが望ましいと考えられます。
エゼチミブも安全性が高く有用と思われますが,心血管イベントの発症抑制効果は明らかになっていません。そのため,75歳以上を対象にエゼチミブによるLDL-C低下療法の一次予防効果をみているEWTOPIA75試験は,後期高齢者の脂質異常症管理におけるきわめて重要なエビデンスとなることが予想されます。

【文献】


1) Lewington S, et al:Lancet. 2007;370(9602): 1829-39.
2) Shepherd J, et al:Lancet. 2002;360(9346): 1623-30.
3) 佐々木 淳:日老医誌. 2014;51(3):214-7.

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