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Aβ増加脳の動物実験結果は? コリンエステラーゼはどう変化する?【IL-1βやTNF-αなどのサイトカイン増加により慢性炎症と神経変性が起こる】

No.4783 (2015年12月26日発行) P.65

松本信英 (順天堂大学大学院 認知症診断・予防・治療学講座)

登録日: 2015-12-26

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

ネズミを用いた実験で,短時間でアミロイドβ蛋白質(amyloid-β protein:Aβ)を増加させた脳や,長期間Aβを増加させた脳細胞の生化学的な物質の変化をお教え下さい。また,それぞれの場合のコリンエステラーゼ(cholinesterase:ChE)などに関する変化も教えて下さい。
(大阪府 E)

【A】

アルツハイマー病(AD)モデルマウスとしては,AD家系でみられる変異型APP(amyloid precursor protein)を過剰発現したトランスジェニック〔APP-Tg(transgenic)〕マウスが数種類作製されており,広く用いられています。いずれのAPP-Tgマウスでも,加齢に伴いAβ沈着,シナプスロスおよび記憶学習機能の低下が認められますが(文献1,2),AD脳でみられる神経原線維変化や神経細胞脱落はほとんどみられません。APP-Tgマウス脳では,AD脳と同様にAβ沈着の周囲に反応性アストロサイトやミクログリアの集積がみられ,IL-1βやTNF-αなどのサイトカインが増加します。これらのサイトカインにより,脳内では慢性炎症と神経変性が起こると考えられています。
AD脳では,上記の変化に加えてタウ蛋白の過剰リン酸化が起こり,神経原線維変化が形成されます。APP-Tgマウスでも,変異型タウTgマウスなどと交配させることで,タウ蛋白のリン酸化亢進や神経原線維変化様の蓄積および神経細胞脱落が認められるようになります(文献3)。
AD脳では,前脳基底部のコリン作動性神経細胞に変性脱落が生じ,アセチルコリン(acetylcholine:ACh)活性が低下していることが明らかとなり,これがアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)の開発につながりました。脳室内Aβ注入モデルラットでも,コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)の低下や,AChの遊離阻害が報告されています(文献4)。AChEは,AD脳では全体的に活性が低下しているものの,Aβ沈着や神経原線維変化の周囲では増加しているとの報告があり,Aβやタウ蛋白の蓄積に関与している可能性が示されています。
APP-Tgマウス脳のAChE活性は対照マウスと差がありませんが,AChEIの投与により,Aβ蓄積とシナプスロスが抑制されることから,AChEのACh分解以外の機能がADの病態に寄与している可能性があります(文献5)。

【文献】


1) Hsiao K, et al:Science. 1996;274(5284):99-102.
2) Westerman MA, et al:J Neurosci. 2002;22(5):1858-67.
3) Lewis J, et al:Science. 2001;293(5534):1487-91.
4) Nitta A, et al:Neurosci Lett. 1994;170(1):63-6.
5) Garcia-Ayllon MS, et al:Front Mol Neurosci. 2011;4:22.

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