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減圧症(潜水病)[私の治療]

No.5062 (2021年05月01日発行) P.78

工藤大介 (東北大学大学院医学系研究科救急医学分野講師)

登録日: 2021-05-03

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  • 減圧症Ⅱ型および動脈ガス塞栓の場合は,早期の高気圧酸素治療(再圧治療)が最も重要である。高気圧酸素治療装置は1名のみ収容可能な第1種装置と2名以上収容可能な第2種装置がある。重症患者は第2種装置で治療する。地域において,第2種装置を保有する施設を把握し,搬送体制を確立しておく。また,第2種装置を保有する施設は,「米海軍ダイビングマニュアル」に準拠した「再圧治療表」に則った治療を行う準備をしておく。

    ▶病歴聴取のポイント

    潜水に関連する病態には,「減圧症」と「動脈ガス塞栓」がある。2つの病態を合併することも多い。潜水中や浮上後に発症したということが診断の最大のポイントである。浮上速度が速く,十分な減圧ができていないと減圧症が起こりやすい。潜水が深いと減圧症Ⅱ型を生じやすい。浮上中や浮上後すぐの発症は重症になりやすい。急浮上の場合や水面到着後早期の意識消失がある場合は,動脈ガス塞栓を考える。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    減圧症でも動脈ガス塞栓でも,重症患者では呼吸の異常(頻呼吸,徐呼吸,SpO2低下),循環の異常(頻脈,徐脈,血圧低下,ショック),意識障害がみられる。

    【減圧症】

    潜水時に血液や組織内に溶解した(ガスボンベからの)気体が,浮上時に気泡を形成し,血管塞栓,組織破裂や圧迫,炎症・凝固反応を引き起こす。この病態が減圧症である。Ⅰ型は比較的軽症であり,関節痛,皮膚の発赤,瘙痒などの局所の炎症症状を発症する。Ⅱ型は脊髄障害,脳障害,肺障害と内耳障害を生じる。脊髄障害では,知覚異常,四肢の運動障害,肛門直腸障害などを生じる。脳障害においては,意識障害や痙攣,麻痺などが起こる。肺障害では,胸部痛,喘鳴,呼吸困難,咳などが生じる。また,内耳障害ではめまい,嘔気,聴力低下が生じる。その他,全身倦怠感や疲労感もⅡ型の症状に含まれる。

    【動脈ガス塞栓】

    浮上(減圧)時に,何らかの原因で肺が過膨張になり,気泡が肺毛細血管から全身の循環系に入り,塞栓症を呈するのが動脈ガス塞栓である。肺では,肺胞破裂,気胸,縦隔気腫が生じる。塞栓症では,脳と冠動脈に関連する症状(不整脈,心筋梗塞,心停止など)がみられれば重症である。脳梗塞の症状(麻痺や構音障害,失語,痙攣など)や急性冠動脈症候群による胸痛や動悸,心不全の症状(呼吸困難の有無,末梢冷感,湿潤,冷汗,肺野の水泡音など)に注意する。

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