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自殺企図(未遂)[私の治療]

No.5062 (2021年05月01日発行) P.89

新村秀人 (慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室専任講師)

登録日: 2021-05-04

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  • 自殺未遂者には,自殺企図による身体的問題と精神医学的問題とが併存している。まずは必要な身体科治療を行うとともに,背後にある精神状態を評価し,必要があれば精神科治療につなげなければならない。
    自殺未遂者の治療の要点は,個々の自殺の危険因子と防御因子を把握し,危険因子を減らし,防御因子を高めることである。

    ▶病歴聴取のポイント

    医療者の態度としては,受容,共感,傾聴が基本となる。批判的にならない,叱責しない,説諭をしないよう心がける。自殺を企図するまで追い詰められた患者の心境を考えると,まずは患者の苦労に対する「ねぎらい」の言葉をかけるべきであろう。来院したことや自殺について打ち明けたことを肯定する。患者は絶望感や無力感にとらわれているので,明確に支援を表明したほうがよい。支援は,患者の置かれた状況に応じて個別的かつ具体的に行い,安易な励ましや安請け合いをしない。

    自殺企図や希死念慮について話題にすることは,患者の再企図予防の第一歩であり,問題が明らかに存在するのに,それをないかのように振る舞うことは不誠実である。患者との関係性を築いた上で,自損行為の意味や現在の自殺念慮の有無を明確に尋ねる。

    ▶バイタルサイン・身体的診察のポイント

    身体的危険性と再企図危険性を考慮して,身体科治療と精神科治療のバランスを判断し,治療環境を決定する。身体状態が重篤な場合は,精神状態によらず身体合併症の治療が優先される。

    【情報収集・企図手段の確認】

    一手目 :バイタルサインや身体状態の確認

    自殺未遂者は自殺企図の情報を話さない,あるいは意識障害や精神症状により本人から情報を得られないことがあり,身体状態や意識障害などに関する情報を注意深く把握する必要がある。たとえば,意識障害で倒れているところを発見された場合,大量服薬なのか,服毒なのか,一酸化炭素中毒なのか,など詳細に確認する。

    二手目 :これまでの経歴,受診歴,現病歴などの確認

    発見者や発見状況,遺書,発見から受診までの状況,家族や支援者はいるか,警察官の対応があったのかを確認する。

    三手目 :自殺企図の手段の確認,必要な身体管理の予測

    本人や周囲から得られる情報(薬袋,薬品容器,用いられた用具など)をもとに企図手段を同定する。手段は必ずしも単独であるとは限らず,リストカット後に大量服薬するなど,複合的である可能性もある。また,身体合併症の重症度から必要な身体管理を予測する。

    【身体合併症の把握と身体科治療】

    身体合併症を把握して,必要な身体科治療を行う。たとえば,焼身自殺を図った場合は熱傷治療,飛び降りやリストカットでは外科的治療,大量服薬では長時間同一姿勢でいたことによるコンパートメント症候群の発生にも注意を払う。排ガスによる一酸化炭素(CO)中毒では,当初は意識障害が軽度で重症度が低くみえても,その後に間歇型CO中毒を発症することがあり,高圧酸素療法が必要となる。

    ①企図の手段:服薬,服毒,刃物・刺物,ガス,飛び降り,飛び込み,入水,縊首

    ②身体合併症:意識障害,呼吸不全,循環不全,中毒症状,外傷・臓器損傷,中枢神経症状,Ⅱ度・Ⅲ度熱傷,感染症

    ③必要な身体管理:身体的精査,全身・呼吸管理,解毒,透析,高圧酸素,縫合処置,熱傷治療,手術

    〈急性薬物中毒〉

    三・四環系抗うつ薬,フェノチアジン系〔ウインタミン®(クロルプロマジン)など〕では,心電図でQT延長・不整脈がないか確認する。リーマス®(炭酸リチウム),デパケン®(バルプロ酸),テグレトール®(カルバマゼピン),アレビアチン®(フェニトイン),フェノバール®(フェノバルビタール)では,採血で血中濃度を測定する。リーマス®(炭酸リチウム)には血液透析,テグレトール®(カルバマゼピン)やフェノバール®(フェノバルビタール)には活性炭が有効である。

    【鎮静】

    意識がしっかりしており「死なせてくれ」などと騒ぎ興奮状態が著しい場合は,必要に応じて以下の方法で鎮静を図る(高齢者は半量とする)。

    一手目 :ジプレキサ®5mg錠(オランザピン)1回1錠,またはリスパダール®1mg錠または2mg錠(リスペリドン)1回1錠

    二手目 :〈経口不可の場合〉ジプレキサ®注(オランザピン)1回10mg(筋注),またはセレネース®注(ハロペリドール)1回5mg(筋注)

    三手目 :〈急速鎮静が必要な場合〉サイレース®注(フルニトラゼパム)1アンプル(2mg)+生理食塩水18mL(ゆっくり静注),またはサイレース®注(フルニトラゼパム)2mg+生理食塩水100mL(30分ペースで点滴静注)

    入眠したら止める。SpO2モニターを装着し,呼吸抑制がないか観察する。
    *合計20mLとすると使用量がわかりやすい。

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