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汎下垂体機能低下症[私の治療]

No.5084 (2021年10月02日発行) P.38

萩原大輔 (名古屋大学医学部附属病院糖尿病・内分泌内科病院講師)

有馬 寛 (名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学教授)

登録日: 2021-09-30

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  • 汎下垂体機能低下症は,狭義にはすべての下垂体前葉および後葉ホルモンの分泌低下を伴う疾患と定義されるが,実臨床では複数の下垂体ホルモンの分泌が低下する複合型下垂体機能低下症を含めることも多い。視床下部-下垂体系の障害により,下垂体前葉ホルモンである副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),甲状腺刺激ホルモン(TSH),ゴナドトロピン(LH,FSH),成長ホルモン(GH),プロラクチン(PRL)および後葉ホルモンであるバソプレシン(AVP)の分泌が低下し,多彩な症状を呈する。原因となる疾患は多岐にわたるが,主なものとして下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫,胚細胞腫が挙げられる。また最近では,自己免疫性視床下部下垂体炎や免疫チェックポイント阻害薬による薬剤誘発性下垂体炎が注目されている。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    それぞれのホルモンの欠乏症状を認めるが,非特異的な症状が多い。ACTH分泌不全(副腎皮質機能低下症:全身倦怠感,食思不振,易疲労感,低血糖,微熱),TSH分泌不全(甲状腺機能低下症:耐寒性低下,皮膚乾燥,脱毛,徐脈,便秘,抑うつ),ゴナドトロピン分泌不全(二次性徴の欠如または停止,月経異常,恥毛・腋毛の脱落),GH分泌不全(小児:低身長,成人:筋肉量減少,内臓脂肪増大,活力低下),PRL分泌不全(乳汁分泌低下),AVP分泌不全(中枢性尿崩症:口渇,多飲,多尿)などを認める。

    なお,副腎皮質機能低下症とAVP分泌不全とを合併すると多尿が不顕在化する(仮面尿崩症)。そのため,副腎皮質ホルモンの補充療法後に尿崩症が顕在化し急激な多尿を呈することがあるので注意が必要である。また,腫瘍性病変が原因の場合は,ホルモン欠乏症状のほかに,頭痛や視野障害を呈することがある。

    【一般検査】

    副腎皮質機能低下症に伴う低ナトリウム血症,低血糖,貧血,好酸球増多,甲状腺機能低下症に伴う高クレアチンキナーゼ血症,高コレステロール血症を認めることがある。

    【内分泌検査】

    下垂体ホルモンとその標的内分泌腺由来のホルモン(ACTH-コルチゾール,TSH-甲状腺ホルモン,ゴナドトロピン-性ホルモン,GH-IGF-1,PRL,AVP)の基礎値の低下を認める。各種負荷試験(ACTH:CRH試験,TSH:TRH試験,ゴナドトロピン:GnRH試験,GH:GHRP-2試験,PRL:TRH試験,AVP:高張食塩水負荷試験)による下垂体ホルモンの分泌反応の低下を認める。視床下部障害の場合には,高プロラクチン血症や,CRH試験およびTRH試験によるACTH,TSHの過大反応を認めることがある。

    【画像検査】

    MRIにより基礎疾患の有無を検索する。下垂体機能低下症をきたす腫瘍性病変は比較的大きいことが予想される。T1強調画像にて下垂体後葉の高信号が消失している場合には,AVP分泌不全による中枢性尿崩症の存在を疑う1)

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    グルココルチコイドと甲状腺ホルモンの補充は生命維持のために必須である。甲状腺ホルモンを先に補充すると,副腎不全が増悪する可能性があるため,まずグルココルチコイドの補充を行い,その1週間ほど後に甲状腺ホルモンの補充を開始する。

    原因となる基礎疾患が存在する場合には,ホルモン補充療法と並行してそれぞれの疾患に対する治療を行う。

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