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ナルコレプシー[私の治療]

No.5085 (2021年10月09日発行) P.49

本多 真 (東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野睡眠プロジェクト プロジェクトリーダー)

登録日: 2021-10-06

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  • ナルコレプシーの中核症状は,耐え難い眠気で居眠りを反復する過眠症状と情動脱力発作である。後者は大笑いや気持ちの高揚など強い感情の動きを契機に,ろれつがまわらなくなる,膝が抜けるといった筋緊張が突然喪失する不思議な症状である。発作中の意識は保たれる。13~14歳が発症ピークで,居眠りの反復で発症し,その後情動脱力発作が生じるのが一般的経過である。ナルコレプシーの病態基盤は覚醒中枢(オレキシン神経系)の機能低下で,覚醒維持ができず居眠りを反復する。オレキシン神経機能低下はレム睡眠と覚醒の中間である寝ぼけを生じやすくし,レム睡眠関連症状(情動脱力発作・睡眠麻痺など)の基盤とも考えられている。

    ▶診断のポイント

    中枢性過眠症の診断は,終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)によって夜間睡眠妨害事象がないことを確認した上で,翌日に4~5回の昼寝試行である反復睡眠潜時検査(MSLT)で病的眠気の有無を判定してくだされる。過眠症であり,かつ入眠後15分以内にレム睡眠が生じる(入眠時レム睡眠期)が2回以上確認されるとナルコレプシーと診断される。情動脱力発作を伴うものをナルコレプシータイプ1(典型例),伴わないものをナルコレプシータイプ2(亜型)と分類する。ナルコレプシータイプ1ではオレキシン神経細胞の変性消失が発症時点で確認されるため,脳脊髄液(CSF)中のオレキシン濃度測定という特殊検査も存在する。神経疾患や合併症治療で睡眠検査前の服薬中止ができない場合などに有効である。CSFオレキシン濃度が110pg/mLと異常低値ならナルコレプシータイプ1と診断される。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    中枢性過眠症には根治療法がなく,日常生活改善が治療目標となる。そのため個人や生活様式ごとに治療の必要性が変わり,生物学的な重症度とは必ずしも一致しない。非薬物療法として最も有効なのは,10~30分程度の短時間の計画的仮眠である。このため学校や職場の理解が重要となる。

    過眠症状に対しては中枢神経刺激薬を用いる。現在日本では3剤が処方可能である。薬物選択は,効果と副作用,および薬物半減期を念頭に行う。覚醒作用の強さは,メチルフェニデート塩酸塩>モダフィニル≧ペモリンとされ,半減期はメチルフェニデート塩酸塩が4~5時間,ペモリンが8~10時間,モダフィニルが10~12時間と異なる。まず作用時間が長く効果が穏やかなモダフィニルあるいはペモリンを朝服用させる。持続時間が短い場合,昼食後にも追加する。ペモリンには稀に重篤な肝障害が生じうることから,モダフィニルが第一選択である。効果不十分な場合はメチルフェニデート塩酸塩に変更あるいは追加する(半減期が短いため1日2回にわけて用いる)。メチルフェニデート塩酸塩は短時間作用型で効果が強いため,研修・会議・試験など覚醒維持が重要な場面での頓服として用いる場合もある。日常生活の支障がコントロールできるところまで,副作用をみつつ増量する。

    レム関連症状(情動脱力発作と睡眠麻痺・入眠時幻覚)に対しては,レム睡眠抑制作用の強い抗うつ薬を用いる。睡眠麻痺や入眠時幻覚など夜間睡眠障害が主訴である場合は就寝前に,情動脱力発作が主な問題である場合は日中(朝あるいは昼)に用いる。最もレム睡眠抑制作用が強いのは三環系のクロミプラミン塩酸塩(日本で保険適用あり)とSNRIのベンラファキシン塩酸塩(適用外)である。クロミプラミン塩酸塩は半減期が21時間と長く,連用により単回投与でも持続的効果が期待できる。三環系抗うつ薬に共通した抗コリン作用(口渇,便秘,排尿障害,眼圧上昇)が問題になる場合は,副作用が少ないベンラファキシン塩酸塩を選択する。

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