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中枢性尿崩症[私の治療]

No.5092 (2021年11月27日発行) P.42

西山 充 (高知大学保健管理センター教授)

登録日: 2021-11-28

最終更新日: 2021-11-22

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  • 抗利尿ホルモン(ADH)の欠乏による尿濃縮障害のために多尿をきたす疾患である。基礎疾患に起因する続発性,原因不明の特発性,および家族性〔バソプレシン(AVP)遺伝子異常〕に大別される。なお,ADHとAVPは同一ホルモンである。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    口渇,多飲,低張多尿(尿量3L/日以上)を呈し,比較的急性に発症することが多い。一方で心因性多飲症を示唆する所見として,尿量の変動が大きい,昼間は多尿であるが夜間尿は少ない,精神疾患の合併,が挙げられる。

    【検査所見】

    本症は低張多尿を示すので,浸透圧利尿による多尿(糖尿病など)をまず初めに除外する。尿浸透圧は300mOsm/kg以下(典型例では100mOsm/kg以下)となり,AVP基礎値は低値となる。診断のために5%高張食塩水試験が行われ,浸透圧上昇に対するAVP分泌反応の欠如により確定診断される。腎性尿崩症との鑑別を目的としてAVP負荷試験も行われ,負荷後の尿浸透圧上昇を確認する。水制限試験は苦痛が大きいために,必要な場合のみ行われる。これらの内分泌検査と並行して下垂体MRI検査を行い,基礎疾患となる間脳下垂体の器質的病変の有無を検索する。

    なお,MRI(T1強調画像)所見では,AVPの枯渇を反映して下垂体後葉高信号は消失する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    基礎疾患(間脳下垂体腫瘍,リンパ球性下垂体炎,IgG4関連疾患,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球症など)が存在すれば,それぞれ原疾患に対する治療を行う。

    本症の治療はバソプレシン補充療法が行われ,半減期の長いデスモプレシンが用いられる。治療薬として,デスモプレシン経口薬〔ミニリンメルト(デスモプレシン酢酸塩水和物)〕または点鼻薬(デスモプレシンスプレー)を選択し,1日2回(朝・就寝前)使用する。本薬を過剰に投与すると,低ナトリウム血症をきたしやすくなるので注意が必要である。1日2回までの投与にとどめて薬効が消失する時間を設けることにより,過剰な水貯留を排出することが望ましい。デスモプレシンは作用時間が長いため,周術期など体液量が変動しやすい状況では水分調節への対処が困難となる。そのため,周術期では血中半減期の短いピトレシン(バソプレシン)の経静脈投与が行われ,時間尿量と血清ナトリウム値を指標として水バランスを調節し,血漿浸透圧の恒常性を保つ必要がある。

    【治療上の注意&禁忌】

    デスモプレシン経口薬は,食後に内服すると吸収不良をきたし薬効が低下するために,食前30分前から食後2時間は避けて使用する必要がある。デスモプレシン点鼻液は,アレルギー性鼻炎の患者では吸収が低下するために,必要に応じて増量の調整を行う。

    視床下部の器質的疾患により中枢性尿崩症と渇感障害を合併した病態(adipsic diabetes insipidus)では,飲水行動による水バランスの補正が困難であり,脱水や高ナトリウム血症が生じやすい。このような症例では,入院中にデスモプレシン使用量が決定された段階で体重の基準値を設定して,その体重を維持することを目安に飲水を行うなどの工夫が必要である。

    周術期に使用されるピトレシンは,高濃度では昇圧作用を発揮するので注意が必要である。なお,本症の鑑別疾患である心因性多飲症に対するデスモプレシン投与は水中毒(低ナトリウム血症)をきたすため,禁忌である。

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