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PTSD(外傷後ストレス障害)[私の治療]

No.5105 (2022年02月26日発行) P.53

平島奈津子 (国際医療福祉大学三田病院精神科/同大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部心理学科教授)

登録日: 2022-02-23

最終更新日: 2022-02-21

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  • 心的外傷体験の後に,その出来事に関連した特徴的な心身の症状が1カ月以上続く精神疾患である。生後1年目以降のどの年齢でも起こりうる。成人の半数では発症3カ月以内に回復するが,数十年にわたって持続する場合もある。

    ▶診断のポイント

    米国精神医学会による診断分類DSM-5では,災害,テロ,戦争,監禁,身体的・性的暴力などによる死の脅威や重篤なけがを直接体験したり,直に目撃したり,あるいは家族や親しい人が体験したと伝え聞いたり,職務遂行中に心的外傷的出来事の細部に繰り返し曝露されたりしたことによって,侵入症状(反復的で苦痛な記憶・悪夢・解離性フラッシュバックなど),出来事に関連する苦痛な記憶・感情やそれに結びつくもの(人・場所・行動など)に対する持続的な回避,認知や気分の低下(解離性健忘・自己や世界に対する否定的な信念や孤立感など),過覚醒症状(攻撃性・無謀な自己破壊的行動・過度な警戒心や驚愕・集中困難・睡眠障害)が1カ月以上続き,そのために社会的・職業的な生活に著しい支障をきたしていることが診断要件となる。

    一方,WHOによる国際疾病分類第11版(ICD-11)ではDSM-5と異なり,より中核的な症状に絞られ,認知や気分の低下,過覚醒症状の集中困難や睡眠障害は診断要件には含まれていない。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    心的外傷的出来事に曝露された直後,PTSD類似の症状が出現することがあるが,それは一時的な反応であり,多くは1カ月以内で治まることを説明(心理教育)することによって,被害者の不安を和らげることが重要である。なお,心的外傷体験後の早期に被害者に「その出来事について詳細に語らせること」は有効ではないとする報告が多く,むしろ控えるべきである。

    PTSDと診断されたなら,患者の学業や就労における役割遂行能力障害の程度や対人関係機能について評価する。また,住居環境や経済状況なども,患者の安心・安全感が確保されているかどうかを評価するための重要な情報となる。もし患者が安心・安全感が得られていないようなら,ソーシャルワーカーの介入も検討し,環境を整える。さらに,最低限の衣食住が提供されていること,身体の健康に配慮されていることなどの確認も,精神医学的治療に先行して行われるべきである。その上で,PTSDの治療や経過について心理教育を行い,包括的な心理社会的評価に基づいて,患者と相談し治療方針を決定する。合併する精神疾患の治療も含めて,短期的・現実的な治療目標を立て,それを患者と言語的に共有する。

    薬物療法では,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のパキシル(パロキセチン塩酸塩水和物)とジェイゾロフト(セルトラリン塩酸塩)が,PTSDの保険適用薬剤である。過覚醒や抑うつが認められる場合に,非定型抗精神病薬の追加が奏効することがある。なお,ベンゾジアゼピン系薬剤は再体験や回避症状には無効であり,攻撃性増悪や習慣性使用などを惹起するリスクがあるため,原則として使用は控える。

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