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疼痛[私の治療]

No.5118 (2022年05月28日発行) P.40

山元 良 (慶應義塾大学医学部救急医学教室)

登録日: 2022-05-31

最終更新日: 2022-05-24

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  • 疼痛の背景には何かしらの疾患・損傷が存在することが多いが,原疾患に対する治療だけでなく,疼痛に対する治療を同時かつ付加的に行うことが大切である。疼痛に対して薬剤治療を行う際は,必要な薬剤の種類と量が患者によって大きく異なることを理解する。

    ▶病歴聴取のポイント

    疼痛の原疾患には,致命的で緊急処置が必要な疾患(急性冠症候群,急性大動脈解離,くも膜下出血,腹部大動脈瘤破裂,急性下肢虚血など)が含まれるため,原疾患の鑑別診断を迅速に進める。この際,疼痛の程度が軽くても,重症の原疾患が存在することがあるため注意する。

    疼痛の原疾患の鑑別診断を進めるために,疼痛の位置,強さ,性状,経過,放散・移動の有無,増悪寛解因子,随伴症状を聴取することは重要である。強い疼痛にて患者が不穏状態であったとしても,多くの場合,これらの病歴聴取は可能である。

    原疾患の鑑別診断を進めると同時に,疼痛に関する病歴を聴取する。この際,上述した疼痛に関する病歴聴取が役立つ。これらの情報から,疼痛の物理的原因臓器(神経,骨,軟部組織,胸腹膜,腹腔内臓器など)を推定することが可能であり,特定臓器に作用する薬剤治療を選択することが可能となる。また,患者の状態が安定していれば,マギル(McGill)痛み質問票や日本語版pain DETECTなどの疼痛の性質に関する質問票を活用することもできる。

    疼痛の程度は,視覚的アナログスケール,数値評価スケール,表情尺度スケールなどの様々な指標を活用して客観的に評価する。年齢や認知機能などを考慮して適切な方法を選択する。決して,医療従事者の印象で疼痛の程度を判断してはいけない。

    疼痛は侵襲刺激に対する生理的反応であるが,その表出には様々な精神認知状態が影響する。たとえば,不安や恐怖は疼痛を増幅し,信頼できる家族や恋人の付き添いは疼痛を軽減する。患者を取り巻く状況を確認することも重要である。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    疼痛の原疾患の重症度・緊急度を判断するのにバイタルサインは有用であるが,バイタルサインだけを用いて疼痛の程度を評価すべきではない。すなわち,血圧の上昇や頻脈が,必ずしも強い疼痛を示すわけではない。

    身体所見によって意識状態やアルコールを含めた急性薬物中毒の所見を認めた場合は,疼痛の評価および原疾患の評価が困難になるため,より慎重な検査を計画する。

    強い疼痛の原因となりうる外傷を認めた場合,患者本人も医療従事者も,その他の疾患・損傷による疼痛を認識することが困難となる。その場合は,より慎重な病歴聴取と広範な身体所見の確認が必要であり,また,より多くの検査が必要となる。たとえば,四肢の骨折患者では,頭蓋内病変や腹腔内臓器損傷の疼痛症状を認めないことがある。

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