現在、わが国には慢性腎臓病(CKD)に該当される方が、1300万人に上る。実に国民の8人に1人である。なぜこれほどまでに増えたのだろうか。世の中の移り変わりを遠目に眺めてみると、その原因が透けて見えてくる(様に思う)。長寿化と経済的繁栄である。
加齢とともに腎機能の糸球体濾過量(GFR)が低下することは周知である。人が歳を重ねると、腎臓も加齢変化を免れない。長寿化とともに腎機能低下者が増加するのは当然に思える。一方で、世界保健機関(WHO)の世界各国の死因統計は興味深い。低所得国では、死因の第一位は感染症である。上位10位以内には、エイズ、マラリア、結核も含まれる。出産に付随した死亡も多い。中所得国になると糖尿病が上位に加わる。さらに中高所得国程度まで豊かになると感染症が次第に減少し、心血管病が上位に加わる。しかしながら腎臓病が上位に入ることはない。世界の中で最も経済的繁栄を達成し得た高所得国になって初めて、腎臓病が死因の第8位に加わる。日本でも腎臓病は死因の第7位に位置づけられている。経済的な繁栄を実現し得て、初めて腎臓病で最期を迎えることできるようになる。
経済的繁栄に裏打ちされた国民衛生の向上、医療の充実、そして長寿化が腎臓病増加の主たる要因であることは間違いない。諸条件が整えば、生物種としてのヒトの寿命は100歳前後と推測されている。ヒトが設計された時に初期設定された個々の臓器の耐用年数(臓器寿命)はどうであろうか。毎年、4万人が新規に血液透析療法へ導入されるが、透析療法へ移行する最多年齢層は69歳を超える。腎臓の耐用年数、保証期間は60〜70年なのかもしれない。
我々が自覚すべきは、心臓、腎臓、大脳などの重要臓器の保証期間を超えて、なお生存を余儀なくされる時代に入ったということである。そして、いつ壊れるかわからず、壊れても保証はない、ということである。もっとも腎臓の場合は血液透析で、代行可能であるが。個体寿命に相応する程度にいかにして臓器を長持ちさせるか、最新の医学研究の成果の実用化を待ちたい。
柏原直樹(川崎医科大学副学長、日本腎臓学会理事長)[慢性腎臓病]
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