株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

坂巻弘之

登録日:
2020-02-13
最終更新日:
2025-08-05
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  • 「ジェネリック医薬品における『ファブレス』の誤解と製造委受託の問題点」

    少し前、米国で、イーロン・マスク氏と貿易・製造業担当上級顧問のピーター・ナバロ氏との間に、激しい応酬があった。ナバロ氏がテスラ社について、「車の製造者ではなく、組み立て業者だ」と発言したのに対し、マスク氏が自身のSNSで「ナバロはレンガ袋よりも愚かだ」と応じたとされる。もっとも、テスラ社が世界各国から部品を調達して組み立てる、水平分業型の生産体制を採用しているのは事実である。このようなビジネスモデルは、1990年代以降、IT技術の発展を背景にアップルなどの米国企業が成功を収め、「ファブレス」型とも呼ばれている。

    近年、日本のジェネリック医薬品企業の中に、自社をファブレス型と称する例がある。ファブレスとは、製造設備を持たず、製品の企画・設計・販売に特化する事業形態を指す。しかし、ジェネリック医薬品において、自社での製造を伴わないからといって、同様に分類してよいかは疑問である。

    ジェネリック医薬品の分野では、2005年の薬事法改正により、共同開発や委受託製造が広く行われるようになった。共同開発では、A社が企画・開発・生産を担い、A社のデータをB社が活用して販売するという形式である。B社は自らをファブレスと称しているものの、実態は単なる外部委託にすぎず、企画や設計にも関与していないことが多い。製造を「丸投げ」し、委託先の監督すら満足に行っていないこともある。

    実際、小林化工に製造を委託していた先発系企業3社が、監査未実施などを理由に行政処分を受けた事例がある。この事件は、製造委託における監督体制の不備を浮き彫りにした。しかし、そもそもこのようなモデルでは、製品の製造元が医療関係者や患者にとって見えにくいという構造的な問題を抱えている。仮にA社製品で不具合が発生し、B社製品も同じ工場で生産されていたとしても、その事実を消費者が認識することは困難である。日本医師会もかつて、「食品でさえ原料の調達先が公開されているのに、医薬品は完全なブラックボックスだ」と批判したことがある。

    このため、日本ジェネリック製薬協会傘下の企業は、原料供給元や製造場所の開示に取り組んでいるが、先発系企業の多くは、いまだに情報公開に消極的である。こうした状況下で、単なる委託モデルを高度な技術形態であるかのように見せかけ、「ファブレス」と称する宣伝は、消費者を誤認させるおそれがあり、看過できない。

    近年、「コンソーシアム」構想と呼ばれる取り組みが注目されつつある。これは、参加企業がそれぞれ製造設備を保有しつつ、互いに製造の委受託を行うという構造である。ファブレスと称する企業も含め、こうした委託関係においては、製造監視体制の不備や情報開示の不透明さが共通の課題であり、今後の継続的な検証と改善が求められる。

    坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[ジェネリック医薬品製造

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