台風や熱帯低気圧が活発になるこの季節には、喘息患者の症状が悪化するケースが増えます。「台風が近づくと喘息が悪化する」「気圧が下がる影響があるのでは?」といった声も多く聞かれます。こうした気象条件と喘息の関係を医療者が理解しておくことは重要です。
気圧と喘息の関連性を調べた研究はいくつかあります。たとえば中国の研究では、気圧の低下が喘息患者の入院増加と関連すると報告しています1)。しかし逆に日本の研究では、気圧が高いと喘息症状が悪化する傾向を報告しています2)。そもそも小児喘息の悪化に気圧は関係ないという報告もあります。このように気圧が喘息に及ぼすメカニズムはまだよくわかっておらず、少なくとも台風による低気圧が喘息悪化の原因と単純に結論づけるのは難しいと考えます。
一方、湿度の変化は喘息に大きな影響を与える要因で、湿度が低すぎても高すぎても症状の引き金となり得ます。乾燥した空気を吸い込むと気管支が収縮し、喘息症状が出現することがあります。一方で湿度が高くても喘息症状の引き金になります。欧州の研究では、湿度が10%上昇すると喘息症状が2.7%増加したと報告しています3)。そのメカニズムとしては、湿度が気道に与える直接的な影響だけでなく、湿度が高いとアレルゲンであるカビやダニの繁殖がうながされ、結果的に喘息症状が悪化するのではと考えられています。台風は湿った空気を運び込むため、喘息患者が症状を悪化させる可能性があるのです。
また、雷雨の後に喘息症状が悪化する現象として「雷雨喘息」があります。これは雷雨の数時間後に喘息発作の悪化が起こる現象で、このタイプの喘息は花粉の飛散時期に起こります。花粉が下降気流によって濃縮され、湿度の高い空気に放り込まれると、花粉は膨張・破裂して細かくなります。結果として花粉濃度が高まり、下気道に吸い込まれることで喘息の引き金になるというメカニズムが考えられます。
日本の研究でも、台風シーズンに喘息症状が悪化する要因として、花粉感作の関与を報告しているものがあります4)。この研究では、台風シーズンに症状が悪化した喘息患者では、もともとスギ花粉に感作されていた人の割合が高かったと報告しています。
このように喘息発作の引き金となる要素には湿度の変化や花粉の感作などの要因があり、台風がそのきっかけとなっているのでしょう。
ちなみに台風に限らず天気が不安定なことは喘息発作の悪化と関係します。最近は季節外れの大雨や夏の異常な気温上昇など、いわゆる異常気象と呼ばれる現象がめずらしくありません。異常気象は特に女性と子どもの喘息の罹患率や死亡率を高めるという報告もあるため5)、小児科医としても見過ごせません。喘息発作は適切な予防管理が症状の安定につながりますので、医療者としても引き続きしっかり管理しなくてはと改めて考えています。
【文献】
1)Fu J, et al:J Asthma Allergy. 2022;15:1035-43.
2)Yamazaki S, et al:BMJ Open. 2015;5(4):e005736.
3)Weiland SK, et al:Occup Environ Med. 2004;61(7):609-15.
4)Suzuki Y, et al:Eur Respir J. 2014;44:P4055.
5)Makrufardi F, et al:Eur Respir Rev. 2023;32(168):230019.
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[気象条件][喘息]
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