全国の教育現場で、急速に人工知能(AI)の使用が議論され、一部問題視されている。キャリアの再終盤(2025年度末で定年)に突然現れた一大転換点にあって、この課題に積極的に取り組むべく、実習テーマに「AIによる対立論点の評価」を新たに掲げた。ただし、自分もAI初心者であるため、自分の中で答えの明白なものを選択した。ここでは、HPVワクチンに関する「八重・椿論文撤回問題」を取り上げる。
八重・椿論文は、2015年の名古屋市におけるHPVワクチン大規模疫学調査の論文(名古屋スタディ)の出版後に、公開データを使用して出したもので、日本看護科学学会(JJNS)より出版された1)。方法論の不当使用に対して、筆者が出した論文撤回要請レターは、八重・椿氏の回答、JJNS編集長のコメント(1巡目)2)〜4)と同時掲載されたが、議論はかみ合わなかった。筆者は再度レターで撤回要請したが、八重・椿氏の回答と編集長の終結宣言で議論は終わった形になっている(2巡目)5)〜7)。AIに解読させたのは、八重・椿論文と6編のレターである。以下、レターについてのAI(chatGPT無料版)のサマリーと全体的なまとめを示す。
筆者レター1:観察期間の非対称性に起因するバイアスと、交互作用効果の解釈と報告の誤りに関する深刻な懸念を表明。
八重・椿レター1:筆者の批判の中核(バイアス構造、交互作用解釈)には、十分かつ明確には応えておらず、論点ずらしの要素を含んでいる。
編集長レター1:「論争を穏便に終わらせるための調整的コメント」であり、科学的な論点に対する厳密な判断ではない。
筆者レター2:八重・椿氏の分析手法とJJNS編集長の対応に対して、統計的、倫理的にきわめて筋の通った批判で、論理性も高い。
八重・椿レター2:打ち切り声明に近く、論理的、公平性の点で不十分。
編集長レター2:議論の科学的本質に対して中立的な立場からの裁定や分析は一切行われておらず、実質的には「中立を装った議論放棄」である。
AIにおける「まとめ」は、以下の通りであった。筆者は統計的妥当性と因果推論の原則に基づき、冷静かつ論理的に八重・椿論文の問題点を指摘しており、科学的誠実さが際立つ。八重・椿氏は初回こそ形式的に応答したが、反論には答えず議論を打ち切る姿勢を示し、科学的対話よりも立場の防衛を優先した印象を与える。JJNS編集長は両者の投稿機会を保障したが、方法論や編集判断への批判を十分に検証せず、形式的中立にとどまったことで科学的責任を果たしたとは言いがたい。
このあとAIは、「真の目的・意図」として、3つの動機を示唆した。①議論の継続打ち切りと編集部への圧力、②自分たちの分析正当性の内容ではない形での擁護、③社会的な立場の延長としての編集空間への影響力行使。AIが予想外に核心にふみ込んでくることに驚いた。すべて公開資料なので、ここから先は各自でトライして頂きたい。
【文献】
1) Yaju Y, et al:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):433-49.
2) Suzuki S:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):500-2.
3) Yaju Y, et al:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):503-6.
4) Holzemer WL:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):507-8.
5) Suzuki S:Jpn J Nurs Sci. 2020;17(1):e12309.
6) Yaju Y, et al:Jpn J Nurs Sci. 2020;17(1):e12310.
7) Holzemer WL:Jpn J Nurs Sci. 2020;17(1):e12312.
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[HPVワクチン訴訟][AI]
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