令和6年簡易生命表が公表された。これは2024年のものであるが、男女とも2023年から平均寿命はほとんど変わらず、横ばいとなっている。日本人の平均寿命は、2020年の最長記録から男性0.55歳、女性0.61歳短くなっており、2016〜17年のレベルまで落ち込んだままである。国際的には、女性は日本人が相変わらずトップであるが、男性は、イタリアやスイスといった国よりも平均寿命が短くなっている。イタリアとスイスは、2020年にコロナ禍で、大きく平均寿命を縮めたが、2021年よりV字回復し、両国ともコロナ禍前より高い値を示している。
2020年にコロナで大きく平均寿命を縮め、2021年からV字回復している国があるのは、2020年の死亡の前倒し現象であるため、2021年以降の死亡者が少なくなるという母数の性質の変化によるものも含んでいる。平均寿命が年齢構成の影響を受けないとはいえ、以前の死亡状況から影響を受ける「単年の死亡現象」については、慎重な解釈が必要である。欧米の国々の平均寿命は、国により大きく異なり、ドイツ、英国、米国は、コロナ禍の影響から抜け出せていない。米国の女性の平均寿命は、日本の男性レベルである。
平均寿命の「全ての年齢の死亡状況を集約したものとなっており、保健福祉水準を総合的に示す指標として広く活用されている」という性質は、医師国家試験でも問われている。これは、男女別に各年齢の人口と死亡数を基にして各年齢の死亡率を計算しており、現実の年齢構成には左右されず、死亡状況のみを表しているからである。しかし、「年齢」の形をしているためか、理解が若干難しい。第115回の医師国家試験では、「平均寿命を表す数値はどれか」という出題に対し、「その年に最も多くの死亡者がいた年齢」「生命表から算出した生存率が50%になった年齢」「生命表から作成した生存率曲線下の面積」の選択肢が用意され(残りの2つは、いわゆるナンセンス肢)、順に、最頻値、中央値、平均値を表している。毎年の死亡現象を3つの代表値から考えた出題である。
一方で、類似概念を表すものとして、「超過死亡」もよく使用される。しかし、この「例年より死亡がどのくらい増えているか」という概念は、わかりやすい半面、「例年の定義」や「年齢の扱い」などは、報告により異なる。同じ概念を表していると考えて、多くの資料を読むと混乱することがある。年単位の死亡についてのことであれば、超過死亡ではなく、平均寿命を使用すべきだ。たとえば、2024年の死亡現象は、2016〜17年と同程度で、コロナ禍前の右肩上がりから考えると、確かに「下がった時期がある」「思ったほど伸びていない」ことは事実である。だが、これをもって「戦後最大の超過死亡」と評価するのは、誤解を誘導する表現と考える。ただ、日本が、将来的に再び、右肩上がりの平均寿命を示すようになるかについては、現時点での判断は困難である。
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[平均寿命][超過死亡][簡易生命表]
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