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鈴木貞夫

登録日:
2021-01-15
最終更新日:
2024-05-07
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  • 「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『比較によらない関連の可能性の論法』」

    『文藝春秋』2024年4月号に福島雅典京都大学名誉教授へのインタビュー記事「コロナワクチン後遺症の真実」が掲載されている。ワクチンの副反応の因果関係について疫学的に考える。

    アナフィラキシーなどメカニズム的に接種との因果関係が確立しているものはわずかで、それ以外のものは、接種と非接種の両群の発生率を比較することで関連を分析し、エビデンスは構築される。このエビデンスのために両群の比較は必須であるが、厳密な比較妥当性のためには、さらにランダム割付が必要である。それができない市販後の調査で薬害と認定されているものは、サリドマイドの380など桁外れに高いオッズ比を示している事例に限られる1)

    記事には、医学学会で報告・検討されたコロナワクチン接種後発症の疾患の表がある。これは2023年11月までの過去2年間に国内の134学会で発表された201疾患で、これをもとに、世界中のワクチン問題文献データベースを作成し、「3071報の副作用報告」を収集したとある。福島名誉教授の医師としての率直な感想として、「パターンが決まっておらず、全身に起きる、しかも複数が同時に起きる」という前例のないものとしているが、このパターンのない複数症状はHPVワクチンの副反応事案と酷似している。このコロナワクチンの接種後の疾患の表は、関連が前提とする比較が行われておらず、ワクチンはほとんどの国民が接種したのだから、ほぼすべての疾患がここにリストアップされていても何の不思議もない。

    記事には、ワクチン接種後にがん死亡率の上昇がみられるという論文をまとめたことが紹介されている2)。福島名誉教授が最終著者となっているこの論文はプレプリントで、白血病、乳がん、卵巣がんで死亡率の増加がみられ、ワクチン接種に由来する可能性があるとしている。これも比較による分析ではないが、それ以外にも以下の3点で、この結論の蓋然性は低いと考える。

    まずスパイクタンパク質の受容体への結合を介した細胞増殖が原因であれば、接種後の短期間で慢性疾患であるがんの死亡増加に至るのかという点。次に、がん総数は「ここしばらくの減少基調の予測線より減り方が緩い」だけで、増加していない点。最後にワクチン以外の要因、たとえば病院の医療逼迫による「手術延期、中止」「検診中止」の影響が考慮されていない点である。

    また、この論文では年齢調整死亡率の1つの値だけでがん死亡率を評価しているが、がんの増減は年齢により動きが異なり、合計すると年齢層固有の推移の観察はできなくなる。死亡率が変化した部位があるのなら、その変化がその年齢層の寄与によるものかは、病因を探るうえで重要な要因である。年齢調整死亡率では、それが無視され、変化が一律であることが前提になった考察しかできない。

    ワクチンの接種増加をきっかけに増加したものがあれば、原因はワクチンという論法を無条件で受け入れる考えは持っていない。このプレプリント論文も私なら採択しない。

    【文献】

    1)佐藤嗣道:第1回医薬ビジランスセミナー報告集. 日本評論社, 1999, p36-44. 
    https://www.npojip.org/jip_semina/semina_no1/pdf/036-044.pdf

    2)Gibo M, et al:Zenodo. 2024;16(4):e57860.

    鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[「コロナワクチン後遺症の真実」[年齢調整死亡率]

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