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渡辺晋一

登録日:
2020-02-13
最終更新日:
2021-12-28
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  • 「学会が作成するガイドラインの問題点」

    20年前から大学病院を含むいろいろな皮膚科で治療を受けたが、改善しない患者を診た。細かい問診の末に、患者の職業が葬儀業とわかった。そこでピンときたのが菊皮膚炎である。パッチテストで診断を確定し、直接菊に触れない、菊を触った手で肌に触れない、菊に触れる場合は手袋をするようにしたところ、20年間悩んでいた湿疹は出なくなった。しかし、この患者は20年間通院し、診察料、処方箋料、検査代を払い続けていた。日本の皆保険制度では、治療費は出来高払いで、医師の臨床能力と無関係に決められているからである。

    このように日本では患者を治すと、病院の収入が減る。そのせいか、日本皮膚科学会は皮膚科の収入が上がるガイドラインを作成することが多い、という問題意識を私は持っている。たとえばアトピー性皮膚炎(AD)のガイドラインは欧米と異なり、保湿剤を多用する減ステロイド療法である。海外では炎症を抑える強さのステロイドを皮疹部だけに外用するのが基本で、ADは簡単に良くなる。また、保湿剤は炎症がある部位にはほとんど効果がないので、皮疹がなくなった後に保湿剤を使用してもよいが、保湿剤がADに有効とのエビデンスは少ないと欧米のガイドラインに記載されている。また、出生時から保湿剤をつけているとADの発症を抑えるとされたが、今は証拠をもって否定されている。

    しかし学会は今でも「皮脂欠乏症診療の手引き2021」を公表し、第Ⅱ章 皮脂欠乏症のEBMsで、CQ2:「ADに伴う皮脂欠乏症に保湿剤は有用か?」の問いに対して、推奨度:1、エビデンスレベル:Aとした(日皮会誌. 2021;131(10):2255-70.)。推奨度はエビデンスに基づくべきなのに、利益相反がある委員の合意に基づいたもので、エビデンスレベルはA、B、Cに分類したが、その根拠の記載がない。今やエビデンスレベルはⅠ〜Ⅴに分類され、meta-analysisやsystematic reviewがⅠであるが、このCQ2の引用文献には1つもプラセボと比較した二重盲検比較試験がなく、エビデンスレベルは低く、Aでない。そもそも質問が、「ADに伴う皮脂欠乏症」とあるが、ADに伴う乾燥肌はADであって、皮脂欠乏症ではない(病名のすり替え)。学会はスキンケア用品である保湿剤を保険適用外で使用させ、製薬会社の利益を誘導しているようである。

    国民皆保険以外にも、日本ではフリーアクセス、開業の自由(何科を標榜してもよい)、民間医療機関中心の医療提供体制など、医療費高騰の要因が多いが、今回で私の執筆が最後になるため、文章にできず残念である。

    渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[ガイドライン]

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