患者は約1年前から日本在住のインドネシア人。40日前から乾性咳嗽,31日前から39℃台の発熱が出現した。他院で施行した胸部X線写真および血液培養で異常を認めず,抗菌薬を服用しても改善しないため当科を紹介受診した。夜間の盗汗と4週間で6kgの体重減少を認める。既往歴は虫垂炎のみ。
身体診察では,体温37.1℃,脈拍90回/分,血圧128/80mmHg,呼吸数16回/分,SpO2 96%(室内気)。 両側肺底部に吸気終末期の乾性ラ音を聴取する。
一般血液・生化学検査の結果は,WBC 4600/μL(好中球5.5%,好酸球0.7%,リンパ球30.5%),Hb 13.8mg/dL,MCV 78.3fL,LDH 358U/L,ALP 360U/L,AST 81U/L,ALT 73U/L,Na 132mEq/L,FER 631.6ng/mL,CRP 3.4mg/dL。 喀痰塗抹検査およびT-SPOTは陰性。
胸部X線写真を示す(図1)。
咳喘息は感冒などのウイルス感染症罹患後に遷延する乾性咳嗽の鑑別疾患であるが,39℃台の発熱が持続することはない。 T-SPOTは陰性であったものの,インドネシアが結核蔓延国であることから胸部X線写真を見直したところ,びまん性の粒状影を認め(図2),追加の胸部単純CT検査でランダムに分布する粟粒陰影を認めた(図3)。 約2週間後に喀痰培養で結核菌が同定され,イソニアジド,リファンピシン,エタンブトール,ピラジナミドの4剤併用療法が開始された。
結核菌の血行性播種によって生じる粟粒結核は,初感染病巣形成後,そのまま持続的に結核菌が播種される早期蔓延型と,潜在感染で内因性再燃を生じた病変から播種される晩期蔓延型がある。本症例は胸部単純CTで右肺S1区域に陳旧性肺結核病変を疑わせる石灰化を認めたことから,晩期蔓延型と考えた。T-SPOTをはじめとするIGRA(interferon-γ release assay)の活動性結核全体に対する感度は90%であるが,粟粒結核では79%にとどまるとの報告もあるため,陰性でも除外することができない1)2)。罹患患者のうちcompromised hostは半数以下で,健常者も発症することや3),初期の胸部X線では粟粒陰影をとらえにくいことに注意する3)。
【文献】
1) Pai M, et al:Ann Intern Med. 2008;149(3): 177-84.
2) Cho OH, et al:J Infect. 2011;63(5):362-9.
3) Mert A, et al:Medicine (Baltimore). 2017;96 (5):e5875.